旧約聖書の創世記に出てくるノアの方舟の元ネタは古代中国にあった?

2015年9月27日


 

洪水にまつわる神話として、多くの人がまず思い出すのは旧約聖書に書かれたノアの方舟の物語でしょう。

 

実は、古代中国の神話にも巨大な洪水が起こったという記述が残されています。

果たしてそれは、ノアの方舟の物語に描かれたのと同じ洪水なのでしょうか?

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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世界各地に残る“洪水神話”

 

人間の行いに怒る神が、天罰として大洪水を引き起こす、という物語は、世界各地の神話に描かれています。

 

インド神話やギリシア神話、メソポタミアの神話など枚挙に暇がありませんが、特に有名なのは、旧約聖書に描かれた『ノアの方舟』の物語でしょう。

 

人々が悪しき行いをすることに心を痛めた主は、人間を創造したことを後悔してこれを滅ぼすことにしました。しかし主は、善き行いをしていたノアとその家族だけは残すこととし、彼に家族と動物を乗せるための船=方舟を作るように命じます。

 

ノアが方舟を作り家族と動物たちを乗せると、主は40日40夜の間雨を降らせ、世界を水没させて地上に生きるものすべてを滅ぼしてしまいましたが、ノアの家族と方舟に乗った動物たちは、その難を逃れることができました。

 

日本でも、沖縄や奄美地方には島を大津波が襲うという洪水神話のバリエーションとも言える伝説が残されています。

 

 

洪水神話の起源を巡る議論

 

世界各所に同じような洪水にまつわる神話が残されている理由については、さまざまな説が唱えられています。

 

現在、有力視されているのは地域的に起こった洪水がそれぞれの神話の元となったとする説です。

 

世界の古代文明の多くが大河や海などの側に発生、発展したことは良く知られていることです。

それは、川によって土地が肥沃であり、農耕に適していることや、河川や海を使うことで物資の運搬が効率的に行えるから等、文明が発達するのに有利な条件が揃っているからであり、必然的なことであるとも言えます。

 

しかし、土地を豊かにする大河があるということは、しばしば水害が起こるということでもあります。時に大河が起こす巨大な洪水はその文明に甚大な被害をもたらし、当時の人々にとってはそれが世界を滅ぼすような災厄と思えたであろうことは、想像に難くありません。

 

一方で、それらの神話が世界で同時に起こった地球規模の大洪水であったとする説も根強く信じられています。

 

 

その多くは、地球に他の天体(金星や未知の惑星等)の大接近することによって引き起こされたとしていますが、

科学的根拠に乏しいことが問題とされています。

 

古代中国にもあった洪水神話

 

 

古代中国の神話にも、巨大な洪水が起こったことが記されています。

 

旧約聖書の創世記からノアの時代までの物語は、およそ紀元前2000年から1600年の間の物語とされていますが、

中国の神話に描かれる洪水はそれよりも前の時代であったと推測されます。

 

もしかすると、ノアの物語の元ネタは古代中国にあった……のかも?

 

しかし、それにはノアの洪水に代表される『神罰としての洪水』とはかなり様子が違う描かれ方をしているという特徴があります。

 

堯(ぎょう)という帝が統治していた時代、22年間も続く水害が起こりました。

人口が激減したことに悩んだ堯は、臣下の提案を受けて鯀(こん)という人物に治水事業を命じました。

 

鯀は、国の回りに巨大な堤を作って囲ってしまえば水害を防ぐことができると考えましたが、それには膨大な量の土や石が必要となります。それらをどこから調達すれば良いか思い悩んでいた鯀は、水中から現れた亀に「天帝はいくら使っても減らない息壌(そくじょう)という土を持っており、それを大地に撒けばたちどころに山になる」という話を聞きます。

 

九年間の苦難の旅の果てに天帝の元にたどり着いた鯀は息壌を分けて戴きたいと懇願しますが、天帝はそれを拒否します。思い余った鯀は息壌をほんのすこしだけ盗み出し、それを大地に巻きました。息壌はたちどころに増えて山となり、洪水を止めることに成功します。

 

しかし、鯀が息壌を盗みだしたことを知った天帝は軍を派遣して地上から息壌を奪い返してしまいます。息壌が失われると、再び洪水が畑や街を襲い、尭王はこの事態に怒って、鯀を捕らえ、死刑にしてしまいました。

 

それから更に20年の後、尭から禅譲を受けた舜(しゅん)は、鯀の息子である禹(う)に治水事業を引き継ぐように命じます。天帝から息壌を譲り受けることができた禹は、父が成し得なかった治水事業を完成させ、後に夏(か)という王朝の創始者となります。

 

あくまで大洪水が一方的に世界を滅ぼしてしまうという多くの神話の類型と異なり、人間が治水事業によってこの洪水を克服するという異質な展開を見せる中国神話は、洪水神話とは異なる『治水神話』の代表的な例として知られています。

 

中国の神話が治水を物語とした理由

 

 

中国は黄河と長江という二つの大河に恵まれ、文明が栄えるには絶好の場所とも言えます。

しかしそれは同時に、二つの大河がもたらす水害の問題を抱えることでもありました。

 

中国においては、この二つの大河を制することこそが、国を治めるための根本的な事業であったと言えます。

中国神話に治水の物語が描かれたことも必然であったと言えるでしょう。

 

三国志ライター 石川克世の蛇足

石川克世

 

人々を救い出す為に息壌を盗み出し、その罪によって罰せられた鯀。

ギリシア神話において、天界から火を盗み出して人間に与え、永劫の罰を与えられたプロメテウスの物語と通じるところがあるのは興味深いところです。

 

ちなみに、鯀は中国神話において天下に害をなした四柱の悪神である「四罪」の一柱とされています。

民を救うために尽力した彼が悪神とされているのは、現代の視点からみると、なんとも不当な扱いのようにも思えますね。

 

それでは、次回もまたお付き合いください。再見!!

 

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石川克世

三国志にハマったのは、高校時代に吉川英治の小説を読んだことがきっかけでした。最初のうちは蜀(特に関羽雲長)のファンでしたが、次第に曹操孟徳に入れ込むように。 三国志ばかりではなく、春秋戦国時代に興味を持って海音寺潮五郎の小説『孫子』を読んだり、 兵法書(『孫子』や『六韜』)や諸子百家(老荘の思想)などにも無節操に手を出しました。 好きな歴史人物: 曹操孟徳 織田信長 何か一言: 温故知新。 過去を知ることは、個人や国家の別なく、 現在を知り、そして未来を知ることであると思います。

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