【三国志作家】伴野朗のとんだ災難、事実は小説より奇なり?

2015年10月7日


 

中国歴史小説に詳しい人なら、伴野朗(ともの・ろう)(1936~2004)

という名前を知らないという人は少ないと思います。

 

太陽・武帝や、驃騎将軍(ひょうきしょうぐん)の死、国士無双(こくしむそう)のような中国古代歴史小説から、

落陽曠野(らくようこうや)に燃ゆ、毛沢東(もうたくとう)暗殺、マッカーサーの陰謀のような近現代小説。

 

そして、孫策(そんさく)の死や、三国志孔明死せず、呉・三国志長江燃ゆなど、オールドな

三国志ファンは、その著作を一度は読んだであろうという人気作家でした。

 

しかし、だがしかしです、事実は小説より奇なり、伴野朗は、自身の作品の

為にとんでもないドラマを引き起こす事になります。

 

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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切っ掛けは、伴野の小説、落陽曠野に燃ゆ

 

1989年、伴野朗は、旧満州を舞台にした歴史スペクタクル小説を書きます。

それが、馬賊(ばぞく)、日本軍部、青幇(ちんばん)、欧米悪徳商人が絡む戦争、

恋愛アクションである落陽曠野(らくようこうや)に燃ゆでした。

 

1992年、創立80周年を迎えたにっかつは、その80周年に相応しい、

歴史大作を撮ろうと、原作を探し、伴野朗の小説に行き着きます。

戦争、恋愛、裏切り、情熱、複雑な要素が絡み合った、伴野の小説は、

にっかつ経営陣の目に(かな)い、「落陽曠野に燃ゆ」は映画化される事になります。

 

 

 



素晴らしく豪華な出演者・・なのに?

 

 

にっかつは、バブルの最晩年のこの年、威信を掛けて50億という

巨額を映画「落陽」に注ぎこみます。

 

映画音楽、モーリス・ゴジャール、アメリカ女優、ダイアン・レイン、

香港のアクション俳優、ユン・ピョウ、ドナルド・サザーランド、

日本からも宍戸錠(ししどじょう)や、中村梅之助(なかむらうめのすけ)立川談志(たてかわだんし)、映画評論家、水野晴郎(みずのはるお)

タレント、桐島かれん、等々、錚々(そうそう)たる面々を集めました。

 

「構想5年、撮影3年、製作費50億、92年日本映画界の話題を

()めにした超大作スぺクタルアクション」

だれもが、落陽は素晴らしい映画になると信じて疑いませんでした。

にっかつが、とんでもない大失敗をしてしまうまでは・・

 

なんで?どうして?監督が伴野朗

 

 

映画も役者も全て完璧、しかし、にっかつが発表した監督に

関係者は騒然となりました。

 

落陽の監督、伴野朗・・・・

 

そうです、原作である伴野朗が、そのまま50億円をつぎ込んだ

歴史スペクタクル巨編の監督になってしまったのです。

 

もちろん、伴野朗に監督の経験などあろう筈がありません。

全くの素人がいきなり、にっかつの命運を懸けた超大作の監督に指名されたのです。

 

伴野とにっかつの間にどんな交渉があったかは知りませんが、

映画は監督を交代する事なく、そのまま撮影されつづけました。

 

 

赤壁並みの大失敗でまさかの展開に・・

 

 

落陽は、主人公である元、帝国陸軍将校、賀屋達馬(かやたつま)

上司である関東軍参謀石原莞爾(いしはらかんじ)の密命により

満洲事変を引き起こして満洲の土地に五族協和のユートピアを造る為、

アヘンの密売や銀行強盗などの危険な仕事に手を染めながら活動資金を集めていくという

ハードアクションを縦糸に、歌姫兼馬賊の頭目でもある張連紅(ちょうれんこう)と賀屋との

すれ違いながらも()かれあう恋愛模様を横糸にしていました。

 

ですが実際の映画では、賀屋と連紅の恋愛エピソードは殆ど出てこず、

裏切りや駆け引きという場面が、脈絡なく膨大な量の登場人物と共に

右から左に流れていくだけ・・

映画を観た人は原作を知らない限りは、賀屋と連紅が恋仲だったという事さえ

気が付かないという有様でした。

 

なんでこんな事に?

 

どうしてこうなったのか?それは伴野朗が原作のエピソードを出来るだけ盛り込もうと

150分の映画の尺の中に、ぎゅうぎゅうに内容を詰めたからです。

映画は省略の芸術なので、小説を映画にする時は、原作の核を残して

無関係な人物や逸話はカットしてしまいます。

 

そうする事でメインの物語を印象づける手法なのです。

皆さんも原作つきの映画を見て経験したと思いますが

小説が原作の映画だと小説での登場人物が削除されたり、

二人の人物が一人にされたり、或いは原作とは性格が違うキャラにされます。

 

そうする事で小説よりもずっと短い映画をスピーディーで

テンポ良くするのですが、伴野朗は原作者だけにそれが出来ず

数分後ごとに脈絡なく様々なドラマが展開する

極めて忙しい映画を造ってしまいました。

 

小説なら、戻って登場人物の関係を把握できますが映画はそうはいきません。

観客は、ひたすら銀幕の上で展開される怒涛のドラマを

理解できる出来ないに関係なく見せられ続けたのでした。

 

落陽は、にっかつ映画史上に残る大不評で、

上映も打ち切りが決定してしまったのです。

 

にっかつ落陽の失敗で本当に落陽してしまう

 

 

落陽には、ドラマは生まれませんでしたが、現実世界ではドラマが生まれました。

バブル期の放漫経営と社運を懸けた落陽の記録的不振でにっかつは巨額の負債を

抱えて倒産し会社更生法を申請したのです。

 

落陽は、にっかつ80周年を祝うどころかトドメを刺す役割をしてしまいました。

もちろん、この失敗の責任を伴野朗に背負わせるのは酷というもので、

小説家と映画監督を混同してしまった、にっかつの責任が大きいとは思いますが・・

 

三国志ライターkawausoの独り言

kawauso 三国志

 

中国歴史小説の大家として、三国志関連の書籍、というより晩年は

三国志の人というイメージが強かった伴野朗・・

それが、まさか50億円の映画の監督に指名されてしまうとは、、

そして、にっかつにトドメを刺してしまうとは・・

人生って、どんな落とし穴があるか分かりません。

 

「いやあ、、映画って本当に恐ろしいものですねェ・・」 水野晴郎風

 

 

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kawauso

台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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