楽毅の猛攻に神対応!籠城の天才、斉の田単(でんたん)

2016年3月15日


 

 

 

紀元前284年、秦と並ぶ東の強国だった斉は、突如出現した

燕を中心とする楽毅(がくき)の五カ国連合軍の前に砕け散りました。

そして、七十以上の城が落され、即墨(そくぼく)と莒(きょ)のみが

斉に残されるという絶対絶命の窮地に落ちます。

しかし、ここで最強の籠城戦の腕前を見せて、斉を復活させた

奇跡の名将が登場します、それが楽毅のライバル、田単(でんたん)です。

 

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監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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無名の市場の役人、田単、安平(あんぺい)を脱出時の神対応

 

 

田単は、斉の王族、田氏の傍流ですが、当時、全くの無名でした。

 

紀元前284年、臨菑(りんし)という市場の役人をしていた彼に

燕の楽毅率いる五カ国連合軍が、怒涛の勢いで斉軍を粉砕して、

斉の都、臨菑に迫っているという情報がもたらされます。

 

すでに斉の王は、都を逃げて、莒に逃亡していました。

それを聴いた、臨菑の人々はパニックに陥り、

皆、家財道具を馬車に積んで、我先に城門から逃げ出しました。

 

田単の一族も逃亡していた安平から急いで

脱出しようとしますが、それを田単は押しとどめます。

 

田単「待ちなさい、狭い城門を大勢の馬車が通ると、

接触して、壊れる馬車が続出するだろう!

今の内に、車輪に鉄を打ちつけて補強するのだ!」

 

城門に殺到した馬車が壊れる中、田単の一族の馬車は難を逃れる

 

 

田単の見通し通り、安平の4つの城門は、

馬車が殺到、接触して、大破する馬車が続出しました。

しかし、前もって鉄で補強した田単の馬車は、

衝撃にも負けず、無傷で城を脱出する事に成功するのです。

 

田単の優れた神対応が炸裂した瞬間でした。

 

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湣王(びんおう)暗殺され、即墨の指揮官は戦死する

 

 

臨菑を脱出した田単の一族は、まだ落ちていなかった

即墨という城に逃げ込みます。しかし、そこで田単に最悪の知らせが届きました。

先に莒に逃げた、斉王湣は、宰相の淖齒(とうし)に殺害されたのです。

 

それを怒った、莒の人民は淖齒を殺し、王の息子の法章(ほうしょう)を立てて、

襄(じょう)王としましたが、すでに、斉に残された城は莒と即墨の二つだけでした。

 

さらに悪い事に、即墨の司令官は、楽毅の包囲軍に立ち向かい戦死、

即墨には司令官がいない状態になります。

 

田単、神対応が評価され、即墨の司令官になる

 

 

楽毅は、莒が斉の襄王を中心に団結して落せない事から、

矛先を田単が籠る即墨に向けていました。

司令官の戦死は、その矢先の出来事だったのです。

 

このままでは、命令系統が機能せず、即墨は落ちてしまう。

そう考えた即墨の人々は、安平で馬車の車輪を補強して、

危機を切り抜けた田単を司令官に推します。

 

燕の昭王死去、、楽毅に弱点が発生する

 

 

田単は司令官に押されてより、即墨をしっかりと守りました。

楽毅は、力攻めを避けて、ひたすら包囲作戦をとり、

それは5年間にも及ぶ長いものになります。

 

外部から補給の出来ない即墨は、食糧不足が深刻になり、

追い詰められます。

しかし、この時に、田単に思わぬ朗報がもたらされるのです。

 

それは、楽毅を信じて、すべてを任せた名君、燕の昭(しょう)王の死でした。

おまけに、新しい王には、楽毅とは仲が悪い恵(けい)王が即位したのです。

 

田単、流言を流し、楽毅を更迭させる

 

 

これを知った、田単は、反間(はんかん)の計を発動させます。

 

反間の計とは、敵のスパイを利用して自軍に都合のいい偽情報を

流して、戦局を有利に進める方法です。

 

「楽毅は、本当は、即墨も莒もあっと言う間に落せるのだ、、

しかし、燕の王は、楽毅と仲が悪い恵王であり、楽毅は手柄を立てても、

誅殺されるのではないか?と内心では恐れている。

そこで、楽毅は、ゆっくり包囲して、斉の人民を手懐けて

斉の王になろうとしているのだ。

実際に、即墨の民は、楽毅に心服していて、

楽毅以外の将軍が来たら大変だと噂をしている」

 

田単は、このような噂を意図的に流させました。

即墨に入り込んでいる斉のスパイは、これを燕まで伝えます。

 

ただでさえ、楽毅と仲が悪い、恵王は偽情報をうのみにして

騎劫(ききょう)という将軍を遣わし楽毅を更迭しました。

 

誅殺を恐れた楽毅は、趙に亡命してしまいます。

田単の反間の計は、見事に成功したのです。

 

田単の神対応、神のお告げを利用して士気を高める

 

 

恵王の対応で、楽毅を信じていた燕の兵士の士気は低下します。

田単は、これを逆襲のチャンスと考えて、5年の籠城戦で弱っている

即墨の住民の士気を高めようと考えます。

 

田単「即墨の住民よ、今後は、食事をする時に、

必ず庭に出て先祖に供物を祀るようにしなさい」

 

即墨の住民は、司令官の言う事だからと、庭に出て、

祈りをささげていると、供物を目当てに鳥が大勢飛んできました。

人々は、「これは天変地異の前触れでは?」と驚き怪しみます。

 

田単「住民の諸君、これは吉兆である、間もなく、

即墨を斉から解放する神人が降りてこられるぞ」

 

田単は、その様子を見て、不思議なお触れを出しました。

 

 

お調子モノが、俺が神になろうか?と冗談を言う

 

 

 

こんな不思議なお触れを醒めた目で見ている一人の兵士が、

仲間にふざけて言いました。

 

兵士「へん!そんな神人なら、俺がなってやろうか?」

 

それを聴いた、田単は、ただちに、男を捕まえさせ、

その足下にひざまづいて礼を尽くします。

 

兵士「勘弁して下さい!ほんの冗談です!俺にはそんな大任できません」

 

田単「知っておる、嘘でもいいのだ、、

神人の如く振舞い、わしの言う通りのお告げをすれば、それでいい!」

 

田単は、兵士を強引に説得して、奇怪な衣装をつけさせて、

即墨の全住民の前に披露しました。

 

田単「神人は降臨された、喜べ、間もなく燕は即墨から出てゆくぞ」

 

田単の神対応、奇跡を待ち望む住民の心を掴む

 

 

人々は、普段真面目な田単が、嘘を言っているとは思いません。

さらに、色々な天変地異演出で、本当に神人が降りてくると信じる人もいました。

そうでなくても、先の見えない、籠城戦です。

人ではない神の奇跡を、無意識に皆が求めていたのです。

 

即墨の人々は、歓呼してこれを迎えてひざまずきました。

 

田単神対応、神人のお告げを通して住民の士気を煽る

 

 

やがて、偽の神人は、時々、住民の前に出て、踊り舞い、

予言を行うようになりました、もちろん、全て田単との打ち合わせです。

 

「おお、燕人がわが斉の捕虜の鼻を削ぐ様子が見える、、

なんと、なんと恥知らずな事を、、恐ろしい」

 

或る時は、神人がこのように告げました。

その情報は、即墨に入り込んだ斉のスパイの手で、

城外の騎劫に伝わります。

 

騎劫は、即墨の住民が恐れるならと、

捕まえた捕虜の鼻を削いで見せしめにします。

 

それを見た、即墨の人々は、恐れ、かつ怒り、

燕への憎しみを増加させます。

 

また、神人は、或る時、このように言いました。

 

「おお、燕人めが、即墨の先祖の墓を掘り起こし、

これを焼くのが見える恐ろしい事だ、、」

 

騎劫は、これを聴くと、城外にある墓を掘り起こし、

死体を掘りだして火をつけて燃やしました。

 

それを見た、即墨の人々は、先祖が辱められた事で、

号泣し、怒りに打ち震えます。

そして、兵士ではない女、子供、老人までが

戦を志願する程に士気が増大しました。

 

田単、反撃の機は熟したと悟る

 

 

停滞しきってきた即墨の住民の士気は最高に到達しました。

田単は、チャンス到来と見て、城内のありったけの食糧を集めて、

全ての将兵に振舞い、これまでの働きをねぎらいます。

 

それから、城内の兵力が手薄である事を見せつける為に、

あえて、兵士を城の中に隠し、わざわざ女と子供を城壁に立たせます。

それを見た、燕軍は、即墨の陥落は近いと思うようになります。

 

駄目押し神対応、富豪を偽装降伏させる

 

 

駄目押しに、田単は、即墨の富豪を集めて、偽装工作を提案します。

富豪達は、黄金千金を騎劫への賄賂にし、連名で手紙を書いて、

 

「近く降伏するので、一族の女子供に手を出さないように願います」

 

として、夜中に極秘に使者に持たせました。

 

燕軍は、これをすっかり信じ、完全に警戒心を解きました。

 

最期の神仕上げ、千頭の牛が燕軍に殺到する!

 

 

いよいよ、反撃の時が来ました、、

即墨に潜伏していた燕のスパイを全て捕えて殺してから、

田単は、街中の牛を全て集めました。

そして、千頭にはなろうという牛の角に、二本の剣を結ぶと

さらに、牛に衣装を着せて、そこに奇怪な文様を描きます。

 

そして、夜になると、即墨の城壁に、何十も穴を空け、

牛の尻尾に結んだ薪に火をつけました。

 

ギュモオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!!

 

火が尻尾についた牛は、熱くてたまらず、穴から外に飛び出します。

牛の背後からは、5000人の即墨の兵士が続きました。

 

暗闇から、突然、出現した牛の大軍を燕軍の兵士は、

怪物と勘違いし、武器を捨てて、逃げまどいます。

 

牛の角の刃に突き刺さる者、蹄で踏み砕かれる者、

その後に続く、無言の即墨の兵に殺される者、

どさくさの混戦の中で、燕の総大将、騎劫も戦死します。

 

 

即墨の住民も鍋や釜、銅器を打ち鳴らして異様な音を立てます。

燕軍は総崩れになり、即墨の包囲は解けました。

 

田単、斉を取り戻し、安平君に封じられる

 

 

田単は、逃げまどう燕軍を追撃しながら、各地の城を解放します。

こうして、楽毅が落した七十という城は、あっという間に、

田単によって奪い返されたのです。

 

襄王も、莒から帰還して、田単を安平君に封じます。

無名だった、籠城の天才、田単は、こうして歴史に名をとどめたのです。

 

春秋戦国ライターkawausoの独り言

kawauso 三国志

 

春秋戦国時代には、様々な籠城の名人がいますが、味方の援軍が期待できない

絶対絶命の包囲状態で、次々と策を打ち出して、一気に情勢をひっくり返した

田単に勝る、籠城の名人はいないと思います。

 

本日も悠久の春秋戦国時代に乾杯!!

 

 

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台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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