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リスクを乗り越えた御者への賞賛
死屍累々を乗り越えて、最後の一周に差し掛かるとラッパが吹かれます。観客の絶叫と興奮は頂点に達し、互いに抱き合う者、頭を抱えてしゃがみこむ者。泣く者、悪態をつく者、髪を掻きむしり、目を手で覆う者が力の限りに声を出し天地を震わせます。それは、雷鳴のような車輪の音までかき消してしまう程でした。
砂埃が落ち着くと、血と埃に塗れた最期にして最強の御者がゴールして馬車から飛び降り、待ち構えていた馬車のオーナーと勝利の余韻を噛み締めて抱き合いました。二人は、審判に額と腕にリボンを巻かれて柳の小枝を持ち、大歓声と共に花のシャワーを浴びるのです。
一方で、トラックには戦車の残骸、医務室には苦痛にうめく御者、そして冥王ハデスの下へ旅立った人々が残りました。古代オリンピックには1位以外は存在せず、2位以下は全て負け犬として、一切努力と勇気を讃えられる事は無かったのです。
ですが、だからこそ1位は輝きました。その栄誉は永遠でありオリンピックの勝者は死後も伝説として語り伝えられたのです。
kawausoの独り言
古代オリンピックは、ギリシャ人男性であれば、誰にでも参加資格がある民族の祭典でした。しかも、時代が下りギリシャがローマの属州になるとローマの版図がオリンピックの領域となり、少しでもギリシャ人の血が入り、ギリシャ語が出来れば参加できる程度に条件が緩和されます。
そして、そこでは、時として命懸けの戦いが繰り広げられましたが、人種、門地、身分に関わりなく勝利した者だけが讃えられる極めて民主的な空間だったのです。さて、次回はオリンピックの舞台裏、選手やコーチについて解説しますよ、お楽しみに・・
参考文献:古代オリンピック 全裸の祭典 河出書房