水滸伝(すいこでん)は見方を変えると壮大な仲間集めゲームであるとも言えます。
弱小の山賊集団を強くするには、優秀な人材を集めないといけないからです。
しかし、一般常識と、かなりずれている梁山泊の豪傑達の人材スカウトはかなり強引
そのせいで悲惨な目にあう好漢も少なくないのです。
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この記事の目次
梁山泊に入る好漢のパターンは3つある・・
様々な事情から、梁山泊に入る好漢(こうかん:仁義を通す豪傑の意)には
大体、3種類位の入山パターンが存在しています。
1つ目は、魯智深(ろちしん)や晁蓋(ちょうがい)のように自分の意志で
入ってくるパターン、誰も傷つかず後腐れなく理想的な入山形式だと言えます。
2つ目は、本人は入りたくないが、様々な事情で入山するしかないパターン
これには、林沖(りんちゅう)や宋江(そうこう)、盧俊儀(ろしゅんぎ)
元々敵として登場し降伏する人々等も含まれると言えるでしょう。
性質が悪いのは3つ目のパターンで、これは本人が嫌がっているのを、
梁山泊の面々が強引に仲間にしてしまうものです。
このパターンでは、度々、可哀想な状況が生まれています。
ケース1 平穏な生活を強制的に終了させられる 朱仝
朱仝(しゅどう)は宋江の古い知人で、通り名は美髯公(びぜんこう)
三国志の関羽と同じように見事な長い髯がトレードマークです。
性格も関羽同様に、義理堅く義に厚く流罪先の滄州(そうしゅう)知事に気に入られ、
役所に勤めるようになると、知事の子供に懐かれて守役になります。
朱仝は、知事に義理を立て、梁山泊に入った同僚の雷横(らいおう)がスカウトに来ても
「俺には構わないでくれ、知事様にでっかい恩義があるんだよ」
と決して入山しようとはしません。
時代を超えて愛される中国四大奇書「はじめての西遊記」
洒落にならない、恩人の子供が李逵により真っ二つ・・
それでも「そうか、じゃあ元気でな・・」にならないのが梁山泊の怖い所、
ある祭りの時、朱仝が知事の子供と一緒に祭り見物をしていると
梁山泊の仲間に呼びとめられ、しばらく立ち話をします。
ふと気が付くと、知事の子供がいません、あわてて捜してまわる朱仝の前に
子供を斧で真っ二つに斬り裂いた李逵(りき)の姿がありました。
「何と無慈悲な事を!ぼっちゃんに何の罪があると言うのだ!!」
朱仝は激怒しますが、どうしようもなく梁山泊に入るしかなくなります。
宋江以下、梁山泊の面々は頭をペコペコ下げて、
「どうしてもあなたが必要で、悪い事とは知りながら・・」等と
謝罪を繰り返すので朱仝は許しますが、実行犯の李逵だけは許せません。
命の危険もあったので、李逵は柴進(さいしん)の屋敷に移され、
しばらく梁山泊へ入れませんでした。
李逵は少しも悪びれず
「くそっ!命令通りにやったのに、なんで処罰されるんだ」と不満を述べますが
後に朱仝は李逵と共に出撃しているので、ある程度は和解したようです。
ケース2 医者が欲しい、そんな梁山泊の理由で永久出張 安道全
宋江が北京大名府を攻略している頃、死んだ晁蓋(ちょうがい)が夢枕に立ち、
「近いうちに病に見舞われるから、地霊星の人物に治療してもらいなさい」と言われます。
まもなく、宋江は背中に腫物が出来て寝込み、重体になってしまうのです。
医師を探している呉用(ごよう)ですが、誰に見せても手遅れと首を振るばかり
その時に、張順(ちょうじゅん)が紹介したのが神医という通り名を持つ安道全でした。
早速、呉用の命令で、張順は安道全(あんどうぜん)を迎えに行きますが、
この安道全、結構な快楽主義者で娼婦の李巧奴(りこうど)に夢中になっていました。
そして、張順が事情を説明しても
「女と別れてまで治療したくないなぁ・・」と乗り気ではありません。
李巧奴の一家を皆殺し壁に安道全が殺したと書いた 張順
張順が調べると、この李巧奴は、かつて張順を襲った水賊、
張旺(ちょうおう)の情婦でもある事が分りました。
これ幸いと張順は、李巧奴の屋敷に踏み込んで一家を皆殺しにし、
壁に人殺しは安道全とデカデカと書いてしまいます。
「さあ、安先生、ここに残ってお縄になるか?
俺と一緒に首領の所へ行くか、二つに一つですぜ・・」
安道全は呆れながらも、渋々張順についていき宋江の背中の腫物を治し
その後も梁山泊へ居着く事になります。
安道全のお陰で、梁山泊軍は負傷しても治療して戦う事が可能になります。
毎回、なんらかの事で負傷者が出る梁山泊ですから、医師として腕の奮い甲斐があり
結果として安道全には、梁山泊はよい職場だったのでしょうか?
ケース3 梁山泊入りを断って一族が皆殺しに・・ 秦明
秦明(しんめい)は、霹靂火(へきれきか:雷)という通り名を持つ
短気で大声というキャラクターで豪傑ですが、とても単純な性格です。
秦明は、元々、花栄と親友で、青州に駐屯していましたが、
劉高(りゅうこう)という清風塞(せいふうさい)の長官に、
「お前の友人の花栄(かえい)が宋江(そうこう)という山賊と
通じたようだ、行ってひっ捕えてこい」と命じられ、
花栄に裏切られたと思い、カッとして、軍を率いてやってきます。
ところが単純な性格の秦明は、花栄の罠にかかりまくり、
部下のほとんどを失いおまけに捕えられてしまいます。
しかし、花栄は心を尽くして事情を説明、宋江は立派な好漢であり
実際には劉高こそが悪党で邪魔者の自分を罪に落して清風塞で
好き放題しようと企んでいると説明しました。
それを聞いた秦明は、あっさり納得し無礼な行為をした事を詫びます。
さらに花栄は、秦明に一緒に梁山泊へ行って山賊になろうとスカウトしますが
秦明は「俺は軍人だ、賊にはなれない」と拒否して青州へ帰ります。
青州に帰ると山賊の汚名を被せられ家族は殺されていた!
ですが、青州に帰ると様子がおかしい、城門は開かず矢が飛んでくるのです。
「悪ふざけはやめろ!俺だ分らんのか!」秦明が怒鳴ると城壁の上に
州知事の慕容彦達(ぼよう・げんたつ)が現れて怒鳴り返しました。
「黙れ賊めが!青州の城下を襲っておいて、よくもぬけぬけと!
貴様の一族は皆殺しにしたぞ、これを見よ!」
知事は、秦明の妻の首を城壁に掲げました。
秦明は目の前が真っ暗になります、知らない間に誰かが秦明になり済まし
青州で暴れ、その報復で家族が皆殺しにされたのです。
ですが、今は逃げるが先、慌てて花栄の下に戻っていきました。
そこでは、花栄と宋江が土下座して待っています。
そして、実は、秦明が戻れないように秦明になり済まして青州を
荒らしたのは自分達の部下だと白状したのです。
「なんだと!なんてことを、貴様たちのせいで家族があっ!!」
秦明は驚くやら悲しいやら、腹立たしいやら、
しかし、どんなに怒ったところで、今更どうしようもありません。
結局、花栄と宋江に宥められるように秦明は梁山泊へ入山してしまうのです。
そして、天涯孤独になった秦明に、花栄は妹を与えて縁戚になり、
結果、義兄弟の絆が深まったし、雨降って地固まるという扱いになるのです。
単純な秦明は切り替えも早く、新しい妻と新しい生活を開始し、
すんなりと梁山泊の生活に溶け込んでいきました。
水滸伝ライターkawausoの独り言
このように、梁山泊の人材スカウトは、執拗かつ非情で強烈であり、
一度、狙われると逃げようがなく、拒否すると被害がでかくなる性質の悪さです。
特に、秦明に至っては、秦明を手に入れようと、その家族を巻き添えに殺させて
しまうのですから、ガクブルものと言えますね。
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