5月9日、ロシアはウクライナ侵略開始から2回目の対独戦勝記念日を迎えました。この日に合わせプーチン大統領は、赤の広場で開催された大規模な軍事パレードで演説、「米欧の野心や傲慢さがウクライナ国民の悲劇を招いた」と述べ、欧米へ責任転嫁の演説を繰り広げました。一見強気のプーチン大統領ですが、大統領宮殿に無人機攻撃を受けたほか、ロシアの新興財閥オリガルヒがウクライナ侵略を批判するなど求心力の低下が見受けられます。
アンドレイ・コバレフ氏がウクライナ侵攻を批判
まるで、プーチン大統領への当てつけのように、ロシア新興財閥オリガルヒのアンドレイ・コバレフ氏が演説の前日の5月8日自国のウクライナ侵攻を批判しました。コバレフ氏はテレグラムを通して共有した映像で「当初ロシア軍がウクライナを倒し2~3週以内に首都キーウを掌握すると信じていた」と述べ、予想が外れた事に驚きを見せた上で、侵攻初期のロシア軍の撤退やロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」の沈没。そして、クリミア半島とロシアを結ぶクリミア大橋の爆発、さらには最近のロシア大統領府に対する無人機攻撃などに言及し「これは特別軍事作戦ではなくひどい戦争だ」と批判しました。
ロシアはウクライナ戦争の呼称を認めていない
コバレフ氏は、ウクライナ侵攻が特別軍事作戦ではなく、ひどい戦争だと述べていますが、これはロシア国内ではタブー中のタブーの発言です。プーチン大統領は開戦当初から、ウクライナをネオナチの手から解放するとのスローガンを掲げ、ウクライナ戦争を、特別軍事作戦と命名し、戦争と呼ぶことを認めていません。つまり、コバレフ氏の発言はプーチン大統領の戦争の大義であるウクライナ開放に真っ向からNO!を突き付けたと言えます。プーチン政権と密接な関係にある新興財閥オリガルヒが公開的に政府に異議を提起するのは異例で、今後、コバレフ氏は懲役などの処罰を受ける可能性もあるようです。
オリガルヒとプーチン大統領
ロシアの新興財閥オリガルヒはソビエト政権崩壊後の資本主義導入時期に誕生します。そして、混乱する経済の中で地方から中央まであらゆる政治家と結びつき、政商として利権を獲得し財閥化していきました。その後、1996年の大統領選挙でオリガルヒはロシア連邦共産党の台頭を恐れて、自由主義経済を推進するボリス=エリツィンを支持し当選させるなど力を発揮します。
しかし、新興財閥であるが故に経済基盤は弱く、1998年のロシア金融危機では、多くのオリガルヒが没落、その後プーチン大統領が台頭すると、敵対的なオリガルヒを失脚させると同時に、2007年の世界金融危機で再び窮地に陥ったオリガルヒに対しては、自身への忠誠を誓わせる代わりに財政支援をする等で、オリガルヒを取り込んでいました。それだけにオリガルヒがプーチン大統領を批判するようなコメントを出した事は、ロシア国内においてウクライナ侵略の泥沼に対する不満が高まっているとも考えられます。
背景にはオリガルヒの財産凍結措置か?
今回のオリガルヒ、アンドレイ=コバレフ氏のプーチン政権への不満は、アメリカ主導による、オリガルヒのようなプーチン大統領に近い富豪に対する資産凍結措置が背景にあるのかも知れません。アメリカ政府は、ウクライナ戦争開始と同時に、アメリカ財務省や日本、EU(欧州連合)による特別作業チームの共同声明を発表。今年の3月には、オリガルヒ等に対する資産凍結総額が日本円にして7兆9000億円以上に達したと報じています。経済制裁が長引いている上にウクライナ支持勢力による資産凍結がオリガルヒのプーチン大統領への不満につながっているのかも知れません。
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