ロシア軍は今年4月、ウクライナ東部ドネツク州バフムトのすぐ西に位置するウクライナ軍の防御拠点、チャシウヤールに対する攻撃を開始し、7月に最も攻撃を受けやすい通称「運河地区」を制圧したと伝えられました。しかし、ロシアは人口12000人の小さな地区を占領するために数千人の犠牲者を出しています。
ウクライナ戦争のロシア軍被害でも高い比率
ロシアはウクライナ侵略以降、99000人の人的被害を出したとされます。その割合から見れば、チャウシールの小さな地区を落とすのに数千人の犠牲者を出したのはかなりの比率です。ロシアは確かに前進しましたが、あまりに少ない戦果に対し、兵員の損失が多くなりすぎています。この点について有識者の中には、チャウシールの攻勢を最後にロシアがウクライナに対し決定的な打撃を与える機会は二度とないかも知れないと考える人もいます。
予想外に長引いた運河地区の占領
調査分析グループは、ロシア軍の占領地に突出した運河地区について、すでに五月時点で将来的に陥落する事は避けられないと発表していました。しかし、分析に反し、ウクライナ軍の第5独立強襲旅団、第41独立機械化旅団、第5独立機械化旅団、第67独立機械化旅団、そして第241領土防衛旅団を主力とする守備隊は奮闘し、それから6週間も運河地区を守り抜きました。また、運河地区から撤退した理由もウクライナの報道官によれば、「ロシア軍の爆撃や砲撃で隠れる事が出来る運河地区の建物が消滅したからだ」と説明しています。
物量で押し切る戦術をいつまで持続できるか?
もっとも、ウクライナの事情に関係なく、ロシアの戦術は従来通り、ウクライナの10倍の国防予算と4倍の兵力を駆使して物量で押し切るものでしょう。それに対しウクライナは可能な限り、ロシアに損耗を強いながらジリジリと後退していく事になります。防御するウクライナ側の損失はロシアに比較して格段に少ないので、ロシアは一つの地区、一つの都市を占領するごとに疲労を蓄積させる事になります。さらに、ウクライナ侵略の初期に比較してロシアの占領スピードが鈍化し、同時に犠牲者が増大しているのは誰にも否定しようがない事実です。ロシアがウクライナの首都キーウを占領するまで物量作戦を継続できるか?と言えば、現時点でウクライナから奪った領土が7.2%に過ぎない事を考えると難しいのではないでしょうか?
戦争はガマン比べに
ロシア軍は兵力については、国内の地方の失業者を巧みに取り込む事で補えていますが、軍事車両の損耗は供給を大きく上回り、同時に戦死者の増大で経験不足の兵士が増加した影響で連隊や旅団の弱体化が進んでいます。これによりロシアは以前のような大規模な攻勢が難しくなっているとする指摘もあります。もっともそうであったとしてもロシアの豊富な物量に1/4の兵力で立ち向かう前線のウクライナ兵士の困難は並大抵ではありません。ロシア軍は運河地区を占領後、すぐにシベルシキードネツ・ドンバス運河を渡ってチャシウヤール中心部に対する攻撃を始めると考えられ、果てしない消耗戦はウクライナかロシア、どちらかが音を上げるまで続く事になるでしょう。
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