江戸無血開城の立役者として知られる勝海舟。ドラマや映画では歯に衣着せぬべらんめえ口調で知られる海舟ですが、意外にも上司の顔を立てて取り入る事も上手でした。今回は問題の本質を突きながら上司を怒らせない海舟のプレゼンテーションを紹介します。
海舟渾身のプレゼン海防意見書
勝海舟は江戸の貧しい御家人の長男として誕生しました。勉強が出来た海舟ですが、生活は極貧で開いた蘭学塾は炊事用の薪もなく、床板を剥がして燃料にしていたそうです。そんな海舟ですが、黒船来航後に幕府に提出した海防意見書が採用され、出世の階段を昇って行く事になります。
本質を突きつつ上司を怒らせない
どうして海舟の海防意見書が採用されたのか?それは海防意見書の内容が優れていた事はもちろんですが、幕府首脳に厳しい事を言いつつも怒らせない配慮があったからでした。それは、どのような内容だったのでしょうか?
アメリカを批判し幕府を批判するバランス感覚
海防意見書は最初に、日本の主権を侵害して許可なく江戸湾内で測量しているアメリカを厳しく批判します。ここは幕府首脳も憤っているポイントなので、もちろん共感するでしょう。こうして幕府首脳を共感させた上で海舟は、しかし、アメリカをつけ上がらせた責任は幕府が海防を怠ったせいであると厳しく批判します。ここは上手です。幕府首脳は最初に共感した手前、痛い所を突かれても聞く耳を持つ余裕があります。
もし、これが逆だったらどうでしょう?幕府が海防を怠ったせいでアメリカの軍艦が江戸湾に入り込んで好き放題をしている、これはけしからん!とやられたら、幕府首脳はムッとするでしょう。「何も知らないくせに偉そうに…」となるはずです。この批判の順番が上司を怒らせない海舟のバランス感覚なのです。
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上司を安心させる解決策
当時、幕府は江戸湾に砲台を築く事で黒船を江戸城に近づけまいとしていました。しかし、それは弥縫策であり、本当は西洋列強のように軍艦を多数保有して武力で国を守らないといけないと知っていました。ただ、その為にはお金も時間もかかります。海舟は幕府首脳の苦悩を見越して軍艦を建造しても、それを動かせる人間がいないと意味がないと説きます。そして海軍整備には時間と金がかかるものの心配には及ばない、外国に島を取られても、海軍力さえ強化していけばすぐに取り返せるとして、焦りと憂慮を抱える幕府首脳を安心させたのです。
幕府首脳の悩みに寄り添い提案する海舟
当時、海舟はすでに蘭学者として一流であり、青銅大砲の制作まで依頼されていました。同時に幕府の無策にはイライラを募らせてもいたのですが、意見書で大上段から幕府を批判しても、プライドが高い幕府首脳が取り上げない事は分かっています。代わりに海舟は幕府首脳の不安にズバリと提言し、同時にまだ猶予はある大丈夫と安心感を与えました。海舟の意見書に幕府首脳が舌を巻き、すぐに呼び出したのは当然だったのです。
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