戦争や紛争などで受けた肉体的・精神的なトラウマは、当事者だけでなくその子孫にも影響を及ぼすのでしょうか?この疑問に答えるために行われたマウスを使った実験により、トラウマが遺伝する可能性が示されました。
マウスを使った実験
トラウマが遺伝するかどうかを調べるため、世代交代が速いマウスを用いた実験が行われました。まず、メスのマウスに軽い電気ショックを与え、その際にペパーミントの香りを嗅がせました。この方法で、電気ショックとペパーミントの香りを関連付け、ペパーミントの香りを嗅ぐだけで恐怖反応を示すように条件付けを行いました。次に、この条件付けされたメスのマウスと、条件付けされていないオスのマウスを交配させました。その結果、生まれた子どものマウスにペパーミントの香りを嗅がせると、母マウスと同様に恐怖反応を示しました。
子マウス単体でも恐怖反応
さらに、母マウスから子マウスに何らかの方法でペパーミントの香りに対する恐怖が伝達される可能性を排除するため、生後すぐ子マウスを母マウスから引き離して育てました。それでも、子マウスはペパーミントの香りに対して恐怖反応を示しました。
卵子だけを別のメスのマウスに移植しても同じ
次に、ペパーミントの香りを恐れるメスのマウスから受精卵を取り出し、ペパーミントの香りを恐れない代理母マウスの子宮に移植しました。この場合でも、生まれた子マウスにペパーミントの香りを嗅がせると、恐怖反応を示しました。
マウスの脳にストレスホルモンの増大が見られた
このように、電気ショックとペパーミントの香りの条件付けを受けた母マウスの恐怖体験が遺伝子レベルで子孫に伝達されることが明らかになりました。これを踏まえて研究チームがマウスの脳を調べたところ、ペパーミントの香りを嗅いだマウスの脳では、ストレスホルモンであるコルチコステロンの増大と脳の偏桃体の活性化が確認されました。
トラウマの遺伝は危険を避ける知恵
研究チームは、親世代のトラウマが遺伝子レベルで継承されることで、子孫が自分で体験しなくても外界の危険を察知できるようになると指摘しています。これにより、厳しい自然界で生き延びるための助けになると結論付けました。ただし、今回の実験結果がそのまま人間に当てはまるとは限らず、人間で同様の実験を行うことは倫理的に問題があるため、注意が必要です。
▼こちらもどうぞ