ロシアのプーチン大統領は、相変わらずウクライナを支援する欧州諸国に対して核兵器攻撃を示唆し「言うだけ番長」とも言える状況になっています。しかし、アメリカでは、実際、オバマ政権時代の2016年において、ロシアがバルト三国に侵攻し、NATO軍に対して核攻撃を行った場合、アメリカは報復としてどこに核を使用するかについてシミュレーションを行っていました。
2016年の国家安全保障会議での議論
2016年、大統領への諮問機関で最高意思決定機関の一つである国家安全保障会議が開催されました。議題は、2014年のクリミア編入後、ロシアがウクライナ東部ドンバス地域への介入を続け、隣接するバルト三国のうちの一つに軍事侵攻を行った場合、アメリカはどのように対処するかというものでした。
この会合には、国防総省や情報機関など、政府の各省庁の次官級代表が参加しました。NATOが通常戦力で優位に立ち、ロシアの侵攻を食い止めながら戦闘を進める中で、ロシアが敵に対して戦闘停止を強制するために限定的な核攻撃を行う「エスカレーション抑止」という概念に基づいて、NATO軍やドイツの軍事基地に対して低出力の戦術核兵器を使用するというシナリオが模擬されました。ただし、この会合では、ロシアが核兵器を使用した場合、国際社会からの非難が避けられず、ロシアが完全に孤立し、政治的・経済的な損失を被ることで国際社会がアメリカを中心に結束するという見解が示され、核報復は否定されました。
1ヶ月後の会合では核報復の検討が行われる
1ヶ月後の国家安全保障会議では、さらに参加者のレベルを引き上げ、閣僚級のメンバーが参加して同様のテーマが議論されました。この時の会合では、ロシアの核攻撃に対して即座に報復しない場合、同盟国のアメリカへの信頼が崩れ、米国中心の安全保障体制が崩壊する可能性が主流の意見となりました。
そして、核報復の場所として、ロシアの西部飛び地であるカリーニングラードに核ミサイルを落とすという意見が出されました。しかし、カリーニングラードはロシアの領土であり、全面核戦争のリスクがあるため、この提案は却下されました。次に、バルト三国に対する攻撃も検討されましたが、同盟国の市民への被害を懸念し、この案も退けられました。
最終的には関係のないベラルーシへの核報復
結局、国家安全保障会議は、核報復の場所として、ロシア国内でもなく、バルト三国でもない、戦争とは無関係のベラルーシを選びました。これは、ベラルーシの独裁者であるルカシェンコ大統領とプーチン大統領の間で親密な同盟関係があるためです。ベラルーシはこのシュミレーションの犠牲となりましたが、アメリカは核攻撃を放棄したわけではなく、現在でもロシアがエスカレーション抑止の概念を採用した場合、ロシア国内でなくとも、ためらうことなく核報復をする可能性があるのです。
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