トルストイとドストエフスキーは、19世紀のロシア文学において非常に重要な作家であり、哲学的な視点からも洞察力のある作品を書きました。ほぼ同時代を生きた2人ですが、その小説には、大きな違いがあります。今回は19世紀のロシアの文豪、トルストイとドストエフスキーの違いを解説します。
人間愛に溢れ、華麗で緻密なトルストイ
トルストイはロシア貴族の家に生まれ裕福な家庭に育ち、しばしば貴族社会の内部からの視点を小説に取り入れています。トルストイは、農村生活や平和主義に関心を寄せ、社会的改革にも積極的に関与しました。その影響で、トルストイ文学は、写実的で、登場人物の内面や社会的な状況を詳細に描いています。また、トルストイは物語性のある長大な大河小説を多く書き、登場人物の心理やヒューマンドラマに焦点を当てています。代表作には「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」があります。
ダメ人間ドストエフスキー
ドストエフスキーは、ロシアの中流家庭に生まれます。しかし人格はお世辞にも高潔とは言えず、多額の借金をしては、それを返済するために小説を描くという破滅型のダメ人間文豪でした。そのためドストエフスキーの作品は人間社会の矛盾や、人の醜さや愚かさ、傲慢さと、それらの悪徳がもたらす悲劇に焦点を当てつつも、人間が内面の葛藤や道徳的ジレンマに直面し、魂の救いを求めて信仰に目覚めるような、哲学的でアクの強い群像劇を描いています。彼は犯罪と罰、精神の病と回復、社会の混乱など、ロシア社会の闇を描写しました。ドストエフスキーの小説は暗く内省的で、書きなぐるような悪文スタイルを持っています。彼の作品には「罪と罰」や「白痴」があります。
宗教と道徳に傾倒したトルストイ
トルストイは宗教や道徳的テーマに深く関心を持ち、非暴力、愛、自己認識などのテーマを探求しました。トルストイは、キリスト教アナーキズムに傾倒「不信心者」などの著作で宗教的思索を表現しています。
人間の善悪を見つめたドストエフスキー
ドストエフスキーは人間の心の闇や罪、自由意志の問題に焦点を当て、哲学的な議論を展開しました。彼は宗教的な視点から人間の善悪について探求し、神に対する信仰と神経症の関係を考えています。
まとめ
トルストイは宗教や道徳的テーマを基礎に非暴力、愛、自己認識を探究し、華麗で緻密な描写で大河ドラマのような壮大な群像劇を描きました。一方でドストエフスキーは泥臭く、人間の心の闇や罪、自由意志の問題に焦点を当て、社会矛盾や己の傲慢さにより罪を犯した人間が、それでも自己の葛藤から魂の救いを求め、神の愛によって更生していく物語を描いています。両者は19世紀ロシアの光と影をそれぞれ描いたと言えるでしょう。
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