春秋時代、
乱世をどうにかしようと駆け回った思想家・孔子は、
数千年経った今でも人々の心に訴えかけてくるような
素晴らしい言葉をたくさん残してくれています。
釈迦、そしてキリストと共に
世界三大聖人に数えられる孔子は、
その当時から全ての人に尊敬の心を以て
接せられていたに違いない…!
そう思っていた時期が私にもありました。
実は、孔子と水と油の関係にある者たちがいたのです。
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世の中を変える?バカじゃねえのby隠者
孔子は混乱してしまった春秋の世を
どうにかして正したいという
大きな志を持ちながら各国を旅した人でした。
そんな彼は旅の道すがら、
様々な人に出会ったらしく、
いくつかのエピソードが『論語』にも残されています。
その中でも強烈なのが
微子篇に3条連続で見えるので
紹介させていただきたいと思います。
まずは、こんなエピソード。
孔子が楚の地で旅をしていると、
フラフラと頼りない足取りで歩く
ヘラヘラしたオッサンが現れます。
そのヘラヘラしたおっさんは
大きな声で次のように歌っていたのです。
「鳳凰や鳳凰や、
徳というやつはすっかり衰えてしまったねぇ。
やってしまったことは仕方がないが、
これからのことはまだ間に合う。
やめておけ、やめておけ。
今の時代、政治をどうこうするなんて危ないことだ。」
孔子はこの歌が自分に呼びかけるものであると気づきます。
実はこのヘラヘラしたおっさん、
気が狂ったふりをした隠者で、
孔子に「お前も世を捨てて隠者になっちまえよ」と
呼びかけてきたのでした。
しかし、孔子はこれに反論せんと
オッサンに話しかけようとします。
ところがおっさんはヘラヘラしながら
小走りして逃げていったため、
孔子は話すことができなかったのでした…。
孔子、隠者に冷たくあしらわれる
隠者にモヤモヤさせられた孔子ですが、
またも隠者と遭遇します。
今度は2人の隠者が畑を耕しているところを通りがかり、
孔子は弟子の子路に
「あの2人に渡し場の場所を聞いて来い」の命令。
子路はさっそく2人に渡し場がどこにあるのかを尋ねました。
ところが、質問に対して別の質問が飛んできます。
隠者1「馬車の手綱を持っている人は誰だい?」
子路「孔丘です。」
隠者1「じゃあ色んなところをほっつき歩いているんだから、
渡し場の場所くらい知ってるだろう。」
この答えに困った子路は、
もう1人の隠者に同じ質問をします。
ところがやっぱり質問返しを受けることに。
隠者2「あんたは誰なんだい?」
子路「仲由です。」
隠者2「世の中ってのはこの河の流れのようにどんどん流れて
せき止められないもんだ。
それなのにアイツも違うコイツも違うと
主君を捨ててばかりの奴についているくらいなら、
いっそあんたも俺らみたいな世捨て人についた方がいいんじゃないのかい?」
子路がこのことを孔子に話すと、
孔子は心底ガッカリ。
「私は鳥や獣ではなく、
人間の仲間なのだ!
世界中で正しい道が行われていれば、
私だって無理に流れに逆らおうとは思わない!」
—熱き『キングダム』の原点がココに—
孔子、畑も耕さない奴のどこが先生だとディスられる
弟子・子路が旅の途中で孔子とはぐれてしまったとき、
竹かごを杖に引っ提げて歩く老人と出会いました。
子路はこれ幸いといわんばかりに
「もし、私の先生を見ませんでしたか?」
と尋ねます。
ところが、
その老人からこんな喝が飛んできたからビックリ。
「畑を耕して食うものも作らないで、
誰が先生だってんだ!」
そう言って杖を突き立て草むしりを始めた老人に対し、
「並々ならぬ人物に違いない」と思った子路は、
とりあえず礼のポーズをとって
老人の傍に立っていることにしたのでした。
すると老人も子路を見所のある奴だと思ったのか、
子路を家に招いてご飯を食べさせ
自分の子どもたちと引き合わせ、
ついでに1泊させてくれたのでした。
翌日孔子に追いついた子路が老人について話すと、
孔子は「隠者だ!」と感動。
子路に案内させてその老人を訪ねるも、
家には子どもたちしかいなかったのでした。
三国志ライターchopsticksの独り言
孔子は隠者に対して
多少なりとも敬意を持っていたようですが、
その当時の隠者たちは孔子のことを
良く思っていなかったみたいですね。
逆らうことのできないものに
わざわざ逆らう孔子のことが
滑稽に思えたのかもしれません。
たしかに孔子は
ついには時代の流れに押し流されてしまったかもしれませんが、
それでも数千年以上にわたって
人々から称賛され得る功績を残したわけですから、
孔子の努力は隠者たちの言うような徒労ではなかったのではないでしょうか。
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