週刊ヤングジャンプに連載されている春秋戦国時代を舞台にした群像活劇キングダム、その主人公が信です。信は李信という名前で司馬遷の史記にも登場していて、実在の人物がモデルですが、実際の李信の活躍は漫画に比較するとかなり見劣りします。だとすると、どうして原作者の原泰久は、李信を主人公にしたのでしょうか?
史実の信の功績
史実の李信の活動期間は16年を超える漫画の主人公李信に比較しても短く、8年間に過ぎません。その最初の手柄は王翦の配下として趙の太原、雲中に出征したというもので、ここでは大きな手柄は挙げていません。しかし紀元前226年に秦王政暗殺を企んだ燕国の王都、薊を攻略して燕王と皇太子を敗走させ、皇太子を捕虜にする手柄を立てます。
楚の項燕に大敗し秦を窮地に追い込む
ここまでは良い感じですが、さらに翌年、李信は20万の軍勢で蒙恬と共に楚に攻め込み、楚の項燕の前に大敗します。勢いに乗った項燕は秦の函谷関まで攻め込み、秦王政は隠居していた王翦を呼び戻して60万の大軍を与えて項燕を迎撃しないといけないピンチを招きました。このように李信は功罪で見ると罪の方が大きく、漫画の主人公としては正直微妙なのです。
大敗しても秦王政に許された事が漫画のヒント
では、どうしてそんなダメダメ李信がキングダムでは主人公なのでしょうか?それは、李信が楚を相手に20万の大軍を潰滅させていながら、秦王政に処罰された形跡がない事です。秦は厳罰主義の国であり、戦争の大敗は将軍の死刑で償わせるのが当然でした。
ところが、李信と蒙恬については、20万の大軍を失い、項燕に函谷関を攻められる失態を演じながら処罰が下された様子がなく、李信は数年で復帰して、王賁や蒙恬と共に出陣して斉国を滅ぼしたりしています。原作者の原泰久は、李信には秦王政との特別な絆があるからこそ許されたと仮定し、そこから少年時代の政を救う下僕の少年信を創作し漫画キングダムが生まれたのでしょう。
負けても諦めなければやり直せるというメッセージ
また、李信が20万の兵力を失う大敗を経験しながら再起して斉を滅ぼすまでに至る過程には、負けても失敗しても諦めなければやり直せるというメッセージを込める事も可能です。失敗する、負けるというのは多くの若者が経験する事なので青年漫画のテーマとしてもピッタリ合致していると言えますね。