チ。地球の運動についてはどんな漫画?禁じられた地動説に魅せられた人々の[群像劇]

2024年4月6日


地球

 

「チ。地球の運動について」は、魚豊による漫画で、ビッグコミックスピリッツで、2020年42・43合併号から2022年20号まで連載されました。舞台は15世紀のヨーロッパのP王国、C教が社会の隅々までを縛り、天動説以外の宇宙モデルが禁じられた世界で地動説を命がけで研究する人々の群像劇を描いたフィクションで、2022年6月の段階で単行本の累計発行部数が250万部を突破する人気作品です。完結していますが人気は根強く2024年にアニメ化が決定しました。今回は、チ。の面白さについて解説します。

 

※この記事には、チ。地球の運動についてのゆるいネタバレが含まれます。

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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地動説を唱えると火あぶりになる虚構世界

セミナリオ(教会)

 

「チ。地球の運動について」の舞台は15世紀前半の東欧ですが、実在の世界ではなく信仰されている宗教はC教、国はP王国とボカされています。この世界ではC教が国教として長い間信仰され、生活の隅々まで教会が監視していて、天動説が唯一無二の宇宙モデルとされていました。そして天動説以外の宇宙モデルを研究すれば、異端査問官に逮捕され悔悛しなければ火あぶりになります。それでも科学的に見て天動説に疑問を持つ人間は多く、極秘に天体を観測して地動説に近づく人々が出現。異端査問官は神経を尖らせているという設定です。実際の欧州では、15世紀でも天体の研究は自由であり地動説の学説を持っていても、広く社会に発表しない限り教会は大目に見ていたので、チ。の世界は大幅な誇張がなされています。

 

 

主人公により違う「地動説」に魅せられる動機

kawausoと曹操

 

「チ。地球の運動について」の主人公は次々と変わっていきます。それが群像劇とする所以なのですが、面白いのは主人公たちが地動説に魅せられ研究にのめり込んでいく過程がそれぞれ違っていて、とても興味深いのです。例えば第一集の主人公のラファウは、12歳の少年ですが、この世の全てを合理的に割り切る事を好む性格で、嘘と本音を使い分けて優等生を演じ、飛び級で大学に進学するほどの神童です。ラファウは、当初は規則正しく動く星の動きに合理的な美しさを感じて天体観測をしていました。しかし、天動説モデルでは、地球を宇宙の中心と規定しているので他の惑星の動きがバラバラで、ラファウはそれを美しくないと感じていました。ところが、ある時、地動説を研究したせいで投獄されていたフベルトという天文学者から、地球は不動の中心ではなく他の惑星と同じように自転し、さらに太陽の周囲を回っていると聞かされます。最初は地動説を面白いけど、無理があると一笑に付していたラファウですが、太陽を中心に全ての惑星が規則正しく動く地動説のモデルに美しさを感じ、バレれば火刑にされる恐怖を乗り越え、フベルトの研究を継ぐ決意をするのです。また、第二集に登場する主人公の1人、バデーニは、人生を特別にする瞬間を求め、聖職者でありながら規定に従わず純粋に知だけを追い求め、読む事を禁じられた異端の書を開き、片目を焼かれて田舎に左遷されました。しかし、その片田舎で地動説について記された本に出会い、天動説にはない合理性に神の叡智を感じ取り、自分がその地動説を完成させ「人生を特別にする」瞬間に巡り合ったと直感するのです。このように個性的な主人公が登場して地動説を他人に引き継いでいくのが、この漫画の面白さになっています。

 

 

世界は美しいか否か?

カエサルが新しいユリウス暦を見せびらかす

 

地動説と天動説という天文学に関心がない人にはとっつきにくい内容を扱っている「チ。地球の運動について」ですが、天文学に関心がない人でも楽しめる仕掛けを持っています。それは、地動説と天動説をテーマにしつつも、そこに危険でも世界に希望を見出して生きるか?それとも絶望の中で惰性で生きるかを織り込んでいるからです。15世紀の欧州では、地球は宇宙の中心であり、同時に最も低い場所にあると考えられていました。そのため、地上にはあらゆる種類の悪徳や病気、戦争、貧困が集まって息苦しい社会と捉えられています。対照的に天国は一片の汚れもない清らかで美しい世界とされ、汚れた地球に対し、地球の外の宇宙は天国であるとされているのです。そのため、一部の金持ちや特権階級以外の庶民は、汚らわしく悪徳に満ちた地球での生を一刻も早く終えて、天国に迎え入れられたいと考えています。一方で地動説を唱える人々は天国と地球は断絶していない地続きの世界だと考えていて、その証拠として地球は宇宙の中心ではなく、太陽の周辺を公転する惑星の一つであり、地上も宇宙も統一された法則の下で動いていると主張します。この考えは美しく特別な世界である天国を否定すると同時に、汚らわしいとされた地球を救済し、天国はないが人間は地球を美しくでき、人生を美しく生きられると訴えます。地動説の主張は、社会の矛盾を地球が汚れた罪深い世界だから仕方ないという理屈に押し込めて放置していたC教を揺るがせ、やがて宗教改革へと繋がる大きなうねりになるのです。世界は真剣に生きる価値がない汚らわしいものか?人生を懸ける価値がある美しいものか?という問いは漫画の中で何度も繰り返され、読者の心を熱くします。

 

 

まとめ

テレビを視聴するkawauso編集長

 

「チ。地球の運動について」は、マニアックで退屈になりがちな天文学のテーマを、科学的真理を追究し、たった一度の人生を人間としてより美しく生きたいともがく人々と、従来のC教の教義の中で波風を立てずに眠っていたいと考える人々の対比で描く事で、読者に自分たちは人生を真剣に生きているだろうか?と思わせてくれる熱い漫画です。絵柄には少し癖がありますが、読んでみて損はありませんよ。

 

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台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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