夏になるとコンビニや商店の軒先で作動する青白い光のライトトラップ。光に吸い込まれてバチッと音を立てて地面に落ちていく蛾や羽虫は「飛んで火にいる夏の虫」という慣用句の正しさを思い起こさせます。しかし未来人は飛んで火にいる夏の虫を理解できなくなるかも知れません。それは、近年、虫が進化しライトトラップに飛び込まなくなっているからです。
アメリカの農場データで顕著な差が…
虫が進化してライトトラップに飛び込まなくなっているという信じがたい研究は、アメリカハーバード大学の調査で明らかになりました。アメリカの農園では農作物に甚大な被害を与えるアメリカタバコガの駆除が問題になっていて、タバコガの駆除データも残っていたのです。そこでハーバード大学の研究チームがデータを元に調査をすると、例えばデラウエア州では、主にメスのガのフェロモンを使って蛾を駆除するトラップとライトトラップで蛾を駆除する方法を取っていましたが、25年前のデータでは、フェロモンで駆除されるアメリカタバコガを100%とすると、ライトトラップで捕獲されるアメリカタバコガの数は30%でした。しかし、最近のデータではフェロモントラップで捕獲されるタバコガの数には変化がないものの、ライトトラップで駆除される蛾の割合は、4.6%と25年前の7分の1に激減していたのです。この現象はデラウエア州だけではなく、全米の農場で見られました。アメリカタバコガは全米各地でライトトラップに掛からなくなっていたのです。
アメリカタバコガが進化した
では、この25年の間に、アメリカタバコガの中で何が起きたのでしょうか?それは進化における淘汰だと考えられます。つまり、タバコガの中で光の誘因に弱い遺伝子を持つ蛾が、ライトトラップで駆除されるか、エネルギーを使い果たして子孫を残せないまま死に絶えた一方で、光の誘因に強い遺伝子を持つ蛾が生き残り、光の誘因に強い遺伝子を持つ蛾同士が交配し、さらに光の誘因に強い種を生み出した結果なのです。
夜が明るくなった事はあまり関係がない
また、ライトトラップが効かなくなった原因として、昔に比較して町が明るくなり、アメリカタバコガが光に順応したのではないか?という学説もありました。しかし、今回の実験では、都市の農園と田舎の農園で調査してもライトトラップで駆除されるアメリカタバコガの割合に有意な差がないことが判明し、蛾が光に慣れたせいでライトトラップに掛からなくなった説は否定されました。
人間の数百倍の速さで進化する昆虫
昆虫は人間の世代交代の数百倍の速さで世代が変わるので、極めて短期間で淘汰が行われ、進化が促進される事があるようです。しかし、光への誘因は拒否できても、変わらずメスの蛾のフェロモンに雄の蛾は引っ掛かっているので子孫繁栄に直結する巧妙なトラップには、いかに蛾であっても、なかなか抗えないようですね。
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