魏の鍾会は4歳で『孝経』を読み、7歳で『論語』、8歳で『詩経』、10歳で『尚書』、11歳で『易経』、12歳で『春秋左氏伝』『国語』13歳で『周礼』『礼記』を学んだそうです。
エリート教育の基礎を着々と学びながら育った感じですよね。前近代の中国の知識人の基礎的教養といえば「四書五経」を思い浮かべますが、そもそも「四書五経」って何なんだか、何のために読んでいたのか、調べてみました!
「四書五経」、合わせて九つの必修本
四書五経は、儒教の中で重要とされる9つの書物をまとめて呼ぶ場合の呼び方です。四書は『大学』『論語』『中庸』『孟子』、五経は、『詩経』『書経』『礼記』『易経』『春秋』です。
「五経」という呼び方は、漢の時代から五経博士なんていう役職もあったほど古いものですが、「四書」というまとめ方は三国志より千年くらい後の南宋の時代にできました。朱子学の創始者の朱熹がオススメ本4つをまとめて四子とか四子書とか呼んだのが始まりです。
私は学生時代に『中庸』を読んでみようと思って岩波文庫の本を買って読み始めたら、のっけからうさんくさい気持ちの悪い文章が書いてあるので、なんだこりゃほんとに古代の文章なのかといぶかっていたら、朱熹が書いた序文でした。(最初から朱熹の文章だと思って読めばべつにうさんくさくも気持ち悪くもないです)
四書五経の内容
四書五経に数えられている9つの書物の内容をざっくりと整理してみます。
1.『大学』
もと『礼記』の一部だったものがピックアップされたもの。政治の要諦や君子の心がけが書いてある。代表的な考え方は「修身斉家治国平天下」と「格物致知」有名な言葉は「小人間居して不善をなす」
2.『論語』
儒教のゴッドファーザー孔子の言行録。素敵なことば満載な超有名本。「子曰く、学びて時に之を習う。亦説ばしからずや」でおなじみ。
3.『中庸』
もと『礼記』の一部だったものがピックアップされたもの。中庸の徳(極端にならず偏りのない徳)を説いたもの。
「仲尼曰く、君子は中庸をす。小人は中庸に反す。君子の中庸は、君子にして時に中す。
小人の中庸は、小人にして忌憚なきなり」
4.『孟子』
「性善説」で有名な孟子の言行録。「人必ず自ら侮りて然る後に人これを侮る」
5.『詩経』
古代北方の詩集。生活に根付いた民謡のような詩が多い。曹操の短歌行に詩句が引用されています。
「青青たる子が衿 悠悠たる我が心」
6.『書経』
古代帝王の言行録。青銅器に刻まれたような演説が載っている。
「妹土に爾の股肱を嗣がしめよ。其の黍稷を藝うるを純らにし、
奔走して厥の考と厥の長とに事えよ」
7.『礼記』
礼に関する書物をまとめたもの。「子思曰く、 古の君子は、人を進むるに礼を以てし、人を退くるに礼を以てす、故に旧君に反りて服するの礼有り」
8.『易経』
占術の本。あらゆることは陰と陽の運動によって成り立っているという考え方。
「象伝に曰く、 鞏むるに黄牛を用うるは、以て為す有る可らざるなり。
六二は巳の日に乃ち之を革む、征きて吉、咎無し」
9.『春秋』
春秋時代の魯の国の年代記。簡素な記述ながら、微妙な言葉遣いによって
出来事に対する儒教的ジャッジを下しているとされる。
「戊申、衛の州吁、其の君完を弑す」
四書五経は何のために読む?
四書五経は儒教の経典で、それを読むと儒教的規範を学ぶことができます。中国では漢の時代から儒教を統治の道具として使うことが多かったため、そういう治世のもとで公職について出世したいと思えば儒教を身につけることが必須でした。
三国志の時代の名だたる文人たちはみんな当たり前に五経なんかを読んでいるので、人と会話をする時のごく当たり前な基礎知識でした。時代が下ると、四書五経の知識が官吏登用試験である科挙に合格するためには必須になったため、官僚は四書五経を丸暗記するくらい読んできた人ばかりだったはずです。
四書五経を読むとどんないいことがある?
四書五経を読んでトクをすることといえば、出世に有利になることと、口げんかに強くなることでしょうか。とにかく儒教が大事なんだ、という価値観に塗り込められた世の中では、儒教的規範にかなっていることイコールすばらしい立派な人ということになります。
しょうもない人物であっても“自分はこの経典にあるこういう徳に合致してるからすばらしい人です”っていうパフォーマンスができれば出世できます。なにかやんちゃなことをしでかしても“経典にはこれこれこうとありまする。それに従ったまでのこと”とでも言えばごまかしがききます。
四書五経を読んでも何か技術が身につくわけではありませんが(易占いは技術かも)、他人をまるめこむツールとしては役立ちます。
三国志ライター よかミカンの独り言
四書五経の中にはちらほら沁みる名言があったりして、気に入った言葉を胸に抱いておくと何かにつけて勇気がわいたりもしますね。政治家の人が世のため人のためにどんな政治をするべきかと考える時に参考になるような内容もちょいちょい含まれています(決して鵜呑みにしてほしくない内容もちょいちょいあります)。
古代中国では経典を丸暗記するのが優秀さのあかしだったのですが、三国志の諸葛亮は一字一句にこだわりませんでした。暗記することにエネルギーを費やすより実学を身につけてバリバリ働きゃあいいじゃねえかという志向だったのかもしれません。
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