ゲームなどでおなじみの「博望坡の戦い」の後、博望を守備していた関羽に諸葛亮がその製法を伝えたという、三国志のミリ飯「博望鍋盔」。その由来については他の記事でご紹介しましたが、はたして味はどのようなものだったのでしょうか。中国のインターネットサイトにレシピが載っていたので、作って食べてみましたよ!
この記事の目次
「博望鍋盔」の特徴
「博望鍋盔」の材料は、小麦粉、水、重曹、酵母です。干ばつで兵士達の飲用水や料理用の水が足りなくなり困っていた関羽にこれを作ればよいと諸葛亮がアドバイスしたのが発祥だそうで、レシピを見たところ、パンや肉まんの生地よりも小麦に対する水の割合が少ないです。
それらをこねて、中華鍋くらいの大きさに成形してカリカリに焼き上げるもので、分厚さは3cm以上もあり、たいへん固いのが特徴です。「博望鍋盔」の紹介文によれば、サクサク食感でおいしく、腹持ちもよく、長期保存が可能だそうです。軍用食にぴったりな感じですが、はたして、本当においしいのでしょうか。材料を見たところ、砂糖も油脂も入っておらず、小麦を練ってカッチカチに焼いただけじゃああんまりおいしくないんじゃないのという感じですが……。
さっそく作ってみよう!
レシピは中国語版ウィキペディアのような「百度百科」の「河南博望锅盔」という項目に載っていました。(ちなみに中国語版ウィキペディアはちゃんとあります。「维基百科」)
材料:面粉5kg(用水2kg)、碱面30g。酵面夏季350g,冬季750g,春秋季500g
これは直径22cm、厚さ3cmの生地が12枚作れる分量ですが、今回は食べきりサイズということで、下記の配合で作っていきます。
材料:小麦粉250g、ぬるま湯100cc、重曹1.5g、ドライイースト3g
※レシピにある「酵面」は、小麦粉で酵母を培養した「元種」と呼ばれるものかと
思いますが、今回は手っ取り早くドライイーストを使います
一口に小麦粉と言ってもいろいろありますが、どのようなものがいいのでしょうか。他のレシピを見ると「上等小麦面」と書いてあるものがありました。中国の小麦粉は1等粉、2等粉、標準粉、一般粉とランク分けされているそうで、1等粉のほうが粘りけのもとになるグルテンの含有量が多いようなので、粘りけがでやすい強力粉を使うことにします。
作業工程1.こねる
百度百科のレシピでは、小麦粉と水をある程度こねてから、酵母の元種と水に溶かした重曹を加えるようになっているのですが、今回は元種のかわりにドライイーストを使うので、粉末の状態の重曹とドライイーストを小麦粉とよく混ぜ合わせておいたところへぬるま湯を注いでこね始めます。
生地のこねかたは、押しつぶすようにして、広がったら折りたたんでまた押しつぶす、というようにやるそうです。生地がまとまって表面がスベスベになったら固く絞った濡れ布巾をかけて置いておきます。何分おいておくのかレシピには書いてありませんが、1時間くらいでしょうか。その間の温度についても書いてありませんが、酵母が元気に活動したほうがいいはずなので、30℃くらいに保たれるようにしておきます。
作業工程2.焼く
レシピでは、先ほどの生地を600gずつに分けて、それぞれ直径22cm、厚さ3cmに成形して焼くとありますが、今回は生地が少ないので、厚さ3cmの小さい丸を一つ作って焼きます。フライパンをくるくると回しながら、かつ生地を何度もひっくりかえしながら、均等に火を通していきます。
レシピによると、表面に焼き色がついて固まったら、同じく焼き色がつくまで仕上げた生地を数枚重ねて蓋をして、焦げ付かないように気をつけながら水を加えずに蒸し焼きにするそうですが、これは恐らくオーブンで焼くのと同じような状態になることと思います。今回は1枚しかありませんし、私は焦げ付かないように蒸し焼きにする自信がなかったので、180度にあたためたオーブンで40分間焼きました。しんまでしっかりと焼けば完成です!
完成!気になるお味は……
見た目はこんがりきつね色、けっこうおいしそうです。表面はカッチカチです。包丁で切ろうとしましたが、容易ではありません。ノコギリのようにギコギコと包丁を動かし、表面の生地を半ば粉砕しながらようやく切ることができました。
ゴリッと音を立てながらかじってみると、中身は意外にふっくらしています。そして鼻にぬける香ばしいかおりとお口に広がる甘み……う、うまい!小麦粉を練ってカチカチに焼いただけなのに、どうしてこんなにおいしいんですか!おそるべし諸葛亮、やっぱり天才ですよ!
外は固くても中身はふわふわ。脅威の神レシピ
砂糖も塩も油も入れてないのに、小麦粉と酵母と重曹だけでおいしくなるなんてねぇ……。しみじみ。関羽から相談された「水が少ない」という状況に見事に対応しながら、味まで美味しいという神レシピ。しかも、しっかり水分を飛ばして焼くから長期保存も可能という、軍用食にもってこいのすぐれものです。固いから、作戦行動中に持ち歩いて格闘したりしてもつぶれる心配がないのもいいですね。
外側はフランスパンみたいに固いですが、中はふわふわもっちりしており、中国北方人のソウルフードである「マントウ」(肉まんの皮の部分だけみたいなもの)のような味わいです。中身、固くないんですよ。中までカッチカチだったら兵隊さんたち戦意喪失でしょうけど、せんべいのように香ばしいぱりぱり食感の皮をゴリリとかじれば中にはふわふわの甘い生地がありますから、嬉しいですよね!
小麦粉本来の素朴な味わいなのですが、日本人が塩むすびを食べた時に「うまい!」と思うような感覚で味わうことができます。一晩置いたものを食べてみましたが、中身はやわらかいままでした。外側の固い皮がラップのような役割を果たして中身の変質をふせいでいるんですね。作ってから長いこと置いといても味が保たれるように、わざわざ皮を固くしたのでしょうか。そこまで考えていたとしたら、諸葛亮さん、すごすぎます!
博望防衛部隊の士気を保つ効果も!
水不足に対応。長期保存が可能で味もおいしく、手荒に扱ってもつぶれない優れた軍用食。これだけでも充分すごいですが、さらに、博望の防衛部隊の士気を保つことにも役立ったのではないかと思います。少ない水で小麦粉をこねて、すべすべになるまで仕上げるのは、けっこう重労働です。この作業は、兵隊さん達の体力維持と、レクリエーションにもなったのではないでしょうか。
博望の兵隊さんたちは、いつ敵がくるかも分からない前線基地で、対応するべき脅威が目前に迫っているわけでもなければ、リラックスして遊んでいられる状況でもなく、毎日じりじりしながら過ごしているわけですよね。放っておけば、ばくちでも始めて借金作ってもめるとか、ささいなことで殴り合いを始めるとかいうことになりかねません。意味も無く走り込みとかをさせてもつまんねえと思ってたるんじゃいそうです。そこで毎日、「博望鍋盔を作る」という課題を与えるわけです。
三国時代の軍隊は五人とか十人とかいう単位で運用されていましたが、例えば十人の「什」という単位で、自分の什の分を十人で協力しあいながら作ったら、楽しいのではないでしょうか。十人分の、何キロもあるでっかい生地の上に、大きな板でものっけて、みんなでその板の上に乗っかって踏み踏みしながらキャッキャいいながらこねるんです。で、大きな鍋ででっかい生地を焼いて、十人で分けっこして食べたら、きっと毎日楽しいですよ。仲間との一体感も深まりますし。士気の高い強い部隊になるのではないでしょうか。
三国志ライター よかミカンの独り言
「博望鍋盔」を作ってみて、味もおいしい優れた軍用食であるということが分かりました。私が作ったのは本場の味とは違うでしょうし、諸葛亮が関羽のために発明したというのも言い伝えの話ですが、当らずとも遠からずなのではないでしょうか。
ちなみに、この固い「博望鍋盔」、そのまま食べてもおいしいですが、中国のお料理レシピサイトには、汁に入れてグツグツ煮込むような調理法も載っていました。パングラタンや青森のせんべいじるのような感じですね。私はスライスして牛乳と卵と砂糖の溶液に浸したものをフライパンにのせてバターでこんがり焼いてみましたが、とても美味しかったです!
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