蘇秦(そしん)は秦に対抗する外交策「合従」を唱えて、天下の君主を動かし、
秦の圧力に対抗します。
張儀(ちょうぎ)は蘇秦と真逆の外交策である「連衡」を打ち出し、
歴史に名をとどめます。
連衡とは秦と手を結び、隣国を攻める外交策です。
この策は蘇秦が編み出した合従策を破壊するための対抗策で、
この外交策を見事成功させた事で、彼は歴史に名を刻むことになります。
この記事の目次
鬼谷先生に外交術を学ぶ
張儀(ちょうぎ)は魏国出身の人です。
彼は斉に行き、外交術を学ぶため、鬼谷先生の元で外交術を学びます。
この鬼谷先生の元で一緒に外交術を学んだ一人の天才が居ました。
その名を蘇秦(そしん)と言います。
彼は後年秦に対抗する合従策なる外交策を考え出し、
この外交術を各国の君主に説き、ついに六か国同盟を締結し、
その名を天下に轟かせます。
しかしこの時は未だそのような事が起きると知らず、必死に勉強していた青年でした。
二人は仲が良く、外交術を一体どのようにして、各国の君主に説くのか、
今の世に必要な外交術とは一体どのようなものかなどを論じる仲でした。
こうして二人は互いに切磋琢磨しながら外交術を学び、
鬼谷先生の元を卒業。
蘇秦は西へ、張儀は南へと別れて各国を回ります。
楚で罪を着せられ、ボコられる
張儀は各国を周り、天下の諸侯に外交を説きますが、
君主を動かすまでには行きませんでした。
しかし大臣などは彼の話に耳を傾け、それなりに実のある旅でした。
そんな彼は楚の国を訪れた時、楚の大臣が開いた宴会に呼ばれます。
張儀はこの宴会で自説を大いに述べ、大臣達を大いに頷かせます。
この宴会で楚の大臣が皆に宝石を見せ、大いに自慢します。
その後宴会は終焉に近づいたとき、大臣の宝石が無くなります。
皆は一生懸命に探しますが見つかりません。
その時大臣の息子が「張儀がどさくさに紛れて盗んだに違いあるまい。」と言います。
張儀は反論するも誰も彼のいう事を聞かず捕えられてしまいます。
その後彼の体に百回にわたる鞭が打たれ、ボロボロにされて、放たれます。
舌があれば大丈夫だ
張儀はボロボロの体を引きずりながら家に帰ります。
彼の妻は驚き、急いで彼を治療します。
この時張儀は妻に「俺の舌はまだついているか」と問います。
張儀の妻は「ついていますよ」と述べると、彼は満足げに頷き、
「弁舌家に必要な物は言葉と舌だ。舌がついているなら心配はいらない」と
答えた後、倒れこみます。
蘇秦に呼ばれ、趙へ赴く
張儀は傷が癒えた頃、一人の男が、彼の家を訪れます。
彼は蘇秦の使者で張儀に「今蘇秦は権力の中枢におります。
なぜ友人であるあなたは蘇秦の元を訪れないのですか。」と尋ねます。
張儀は蘇秦が立身出世をしていると知らず、彼の元を尋ねるべく趙へ向かいます。
張儀は彼の家を訪ねますが、彼はいませんでした。
応接に出て来た者曰く「主人は非常に忙しく、家にはほとんど戻りません。
しかし数日後家に戻ってきますので、それまでお待ちいただけますか。」と
尋ねられます。
張儀は「分かった」と頷き、趙の国を見物しながら時間を潰します。
蘇秦から屈辱的な扱いを受ける
張儀は約束通り、再び蘇秦の家を訪れます。
蘇秦は張儀を家の中に招きますが、家の外に座らされます。
さらに饗応に出された食事は従僕が食べるものと同じものが、出されます。
張儀は頭に来ていましたが、堪えて蘇秦の言葉を待ちます。
蘇秦は上座に座ると張儀に向かって「君の才能は私を超えるが、
なぜそんなにみすぼらしい恰好をしているのかね。
今私は趙で優遇されており、君を粛侯に推挙して高位の官職を授ける事は容易だが、
君みたいな落ちぶれた人を推挙するのは止めた」と言い放ちます。
蘇秦はこの暴言を吐いた後、張儀に「秦に行ってくれないか。」と
頼みごとをしますが、彼は内容を全て聞く前に立ち上がり、蘇秦の家を出て行きます。
彼は蘇秦に対抗するため、蘇秦の家を出てから、秦へ向かいます。
隠れて張儀を援助する
蘇秦は側近に「あいつは立派な人物だ。いずれ私を超えると言っても過言ではない。
その為、私は彼が小利で満足しないように、彼を侮辱し、わざと発奮させたのだ。
だが私を超える才能をもっている彼が秦へ行っても、
高位をつかむ事は出来ないだろう。
その理由は簡単だ。彼には資金が無いからだ。
悪いが君にこの資金を預ける故、張儀が困ったら援助してもらいたい。」と
言って、側近に大量の金を渡して張儀の後を追わせます。
三国志ライター黒田廉の独り言
張儀は蘇秦と並ぶ程の外交家として歴史に名を刻みます。
だが名が知られる前の張儀も辛い時期を送ります。
楚の大臣の家ではボコボコにされ、
友人であったはずの蘇秦には屈辱的な言葉を放たれます。
しかしこうしたつらい時期を変えたのは秦へ向かった事と友人蘇秦の陰助が
張儀の運命を大きく変える事になります。
親しくなった商人から金銭の援助を受ける
張儀は秦へ向かう途中、宿で一人の人物と親しくなります。
その人物は各国の特産品を扱う商売を営んでおり、
秦に出店しているお店を視察する為、張儀と共に秦の国に入ります。
張儀は商人から「あなたはこれからどうするのですか」と尋ねられます。
彼は商人に対して「私はこれから秦王に面会したいと思っております。」
と答えます。
すると商人は「秦王と会見するのには色々とお金がかかると思います。
私はあなたを気に入ったのであなたにこのお金を授けます。
このお金は私があなたに投資したお金ですので、返す必要はありません。
秦王とお会いできる事を祈念しております。」と
張儀に伝え、その場を去っていきます。
張儀は驚きましたが、商人の後ろ姿に深々と頭を下げ、
秦王に会見を申し込みます。
秦の恵王の側近として仕える
張儀は秦の恵王(けいおう)に会見を申し入れると、数日後に呼び出されます。
張儀は今まで培ってきた弁論と外交策を駆使して、
恵王を説きます。
恵王は張儀の卓越した弁舌・外交術、それに加えて人間味あふれる情熱に
打たれ、彼を自らの側近に採用。
張儀はこうして秦の恵王に採用される事により、自らの運命を切り開きます。
商人の正体はなんと…
張儀は自分に投資してくれた商人に、
秦王へ仕える事になったと報告し、感謝の意を述べます。
すると商人は驚くべきことを口にします。
彼は張儀に「あなたを見込んだのは私ではなく、
実は私の主である蘇秦様があなたを見込んで援助したのです。
蘇秦様は自らが考えた外交策である六か国同盟が成立する前に、
秦が動き出し、各国に侵攻すると六か国同盟が破断する恐れがあります。
その為、あなたに秦で権力を握ってもらい、
秦が各国に侵攻しないように秦国の手綱を握ってもらう為、
わざとあのような事を言って奮起してもらったのです。
あなたが秦王に仕える事になり、秦の国の手綱を握ってくれれば、
蘇秦様は大いに喜ぶことでしょう。」と真実を告げます。
張儀は真実を知り、蘇秦の家臣に「蘇秦様が私を認めてくれているとは
思いませんでした。
私は秦に仕えたばっかりで蘇秦様の役に立てるか分かりませんが、
精一杯頑張ってみます。帰って蘇秦様に会ったら
『張儀が感謝していました』とお伝えください」と伝えると、
商人は荷物をまとめ、去っていきます。
秦の宰相へ昇進
張儀は秦の恵王の側近として採用された後、色々なアドバイスを
恵王に行います。
張儀が恵王にしたアドバイスは、ほとんどが採り上げられます。
こうして恵王に厚遇された張儀は、恵王に仕えてから数年後、宰相に昇進。
楚の大臣に冗談で、脅迫状を送る
彼は宰相として秦の権力を握った後、復讐を行います。
その悪事とは以前、彼を無罪の罪でボコボコにした楚の大臣を
震え上がらせてやる事です。
その為に考え出した案は楚の大臣に脅迫状を送る事です。
彼は楚の大臣に「昔、あなたの家で酒をごちそうになったが、
その時、私は宝石を盗んでいないのに、
宝石を盗んだ罪をきせられて、鞭で数百回打たれた。
私はその後、数々の苦難を乗り越え、秦の宰相となり、国家を自由に動かせる身になった。
あなたに過去のお礼をするため、今から秦の大軍を率いて城を奪いに行く。
覚悟しておけ。」と書いた脅迫状を送りつけます。
楚の大臣は張儀の脅迫状を読むと震え上がり、
秦の軍勢がいつ来てもいいように、城の防備をがっちりと固めます。
張儀は楚の大臣が幻の軍勢を恐れていると報告を聞くと、
一人で大笑いし、満足そうな顔を側近に向けるのでした。
張儀は秦の宰相の権力を使って復讐を行った後、
彼に大きな仕事が待ち受けておりました。