染谷将太さんが空海を、阿部寛さんが阿倍仲麻呂を演じていることで話題になっている
日中共同製作映画「空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎」
6年がかりで長安の街並みを再現して製作された超大作です。
セットじゃなくて、街をまるごと作っちゃったっていうんですから驚きです!
私ことよかミカン、つい2時間前に映画を見ましたので、
興奮さめやらぬホカホカのレビューをお届けします!
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この記事の目次
映画のあらすじ
1200年以上前、密教を学ぶために日本から唐の長安に
渡った僧、空海。訪れた宮廷で謎の変死をとげる人物を目撃し、その後も相継いで
奇怪な事件がおこる。事件の背後にはいつも黒い猫の影が。
詩人の白居易とともに謎を追ううちに、歴史に隠された
楊貴妃をめぐる哀しき運命と対峙することとなる-。
この「哀しき運命と対峙することとなる-」のフレーズは映画の公式サイトから
いただきました!
原作は夢枕獏さんの小説『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』です。
空海は弘法大師として知られる、日本に真言密教を伝えた
偉いお坊さんです。能筆家としても有名ですね。「弘法筆を選ばず」「弘法も筆の誤り」
みどころ1:長安を再現した壮大な街並み
映画のために街をまるごと作っちゃうなんてクレイジー!(褒め言葉です)
高い場所からの遠景など、唐代の長安の都会っぷりがイメージできて面白かったです。
現代人がピカピカの高層ビル街を眺める時のような感覚を、唐代の人たちも
長安の街並みに覚えていたんだろうなぁと感じました。
街を歩くエキストラの人たちも、ちゃんとそれぞれの役に合った服装や小道具で
演じておられて、ほんとうに唐代の長安にいるようでした。
歩くだけの役でも、きっと一人一人、役を作り込んでいますよ。
お店で売っている物とか、ちょっとした賑わいとか、とてもリアルで生き生きとしてました。
ストーリーを追うのが苦手という方も、街並みを眺めるだけでも充分楽しめると思います!
時代を超えて愛される中国四大奇書「はじめての西遊記」
みどころ2:登場人物の人間模様
空海と白居易が事件の謎を追うというストーリーですが、空海にちょっぴりお茶目な部分が
あったり、白居易が自信家でおしゃべりだったりと、人物像が新鮮で見応えがありました。
この二人の関係が爽やかで、最後の終わり方など、とてもよかったです。
事件の発端は玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋物語なのですが、
玄宗が楊貴妃のことを大好きで大好きでたまらない様子がよく現われている演出も
よかったです。
酔っ払い詩人の李白も、イメージぴったりの気持ちいい酔っ払いっぷりで素敵でした。
詩句が浮かんだ時の李白の表情もよかったな~。
数ある登場人物ひとりひとりがちゃんと唐代をそれぞれ生きている感じがする
スッゴイ映画ですが、中でも一番すごいと思ったのが安禄山です。
安禄山は後に安史の乱を起こす油断のならない人物ですが、
玄宗が長安で楊貴妃と楽しくいちゃついていた頃は安禄山は道化のようなことまでして
玄宗と楊貴妃のご機嫌とりをしていました。
映画には出てこない話ですが、楊貴妃は安禄山をお風呂に入れて赤ちゃんごっこを
して遊んでいたそうです。安禄山が赤ちゃんみたいに丸々とした体型だったので。
芋洗坂係長ばりのぽっちゃりなのにキレッキレのダンスが特技でした。
玄宗から「その腹には何が入っているんだ」と聞かれて「陛下への真心がつまって
おります」と答えたそうですが、映画の安禄山もちゃあんと丸々とした体型で、
道化て躍ってました。表情も腰つきも素晴らしかったです。
「おおっ、これぞ安禄山!」と納得のはまり役でした。
映画を観に行かれる方は、「極楽の宴」に出てくる鶴に変化する二人の少年の顔と名前を
第一印象で記憶しておかれることをお勧めします。
楊貴妃のかんざしをネコババしようとする、青いえりの、頬骨の張ったほうの少年が丹龍、
赤いえりで、ほっそりとした顔立ちで、借金のカタになって幻術使いの弟子になったほうの
少年が白龍です。後のお話にも出てくるので、その都度、どちらにどういうセリフや行動が
あったか区別しておかれると、二人の感情の動きが分かりディテイルまで楽しめます!
注意点1:日本語吹き替え版しかない?
2018年2月28日現在、本邦で大々的に上映されているのは日本語吹き替え版のみのようです。
染谷将太さんと阿部寛さんが頑張ってお覚えになった中国語のセリフや
中国人の俳優さんの生の語気を味わえないのは残念ですが、
日本語吹き替え版も豪華キャストですので、
そちらを楽しむつもりで映画館へ行って頂けるとよいかと思います。
白居易:高橋一生さん 玄宗:イッセー尾形さん 楊貴妃:吉田羊さん
私は中国語版(原題「妖猫伝」)も観ましたが、染谷将太さんも阿部寛さんも
「中国に渡った日本人という役なのに大丈夫か?」と心配になるほど中国語が上手すぎでした!
特に染谷さん。映画の中で現地の人に「お言葉を聞くと倭国(わこく)の方のようですが」と
聞かれる場面があるのに、映画を見ているこっちにはそのセリフが「は?」ってなるほど
倭国の片鱗すらない完璧さでした。
撮影に入っていた5ヶ月の間、中国語漬けで過ごし、白居易役のホアン・シュアンさんにも
手伝ってもらいながら練習したそうです。
阿部寛さんも流暢で、あの感じで中国でラジオのお仕事をしても、外国人がしゃべっていると
気付く人はほとんどいないと思います。
お二方の中国語が日本でも日の目を見る日が早く来てほしいです!(DVDかな…?)
注意点2:空海がメインの話じゃない
最初に人語を話す化け猫が出てきたので、空海が法力でもののけをばったばったと
退治する話かなぁと思ったのですが、そういう話ではなく、メインは楊貴妃をめぐる
美しくも(ちょっぴりグロおっかない)哀しい物語であるようです。
空海は、例えば推理小説で冴えない会社員と天才的頭脳を持つ幼女がタッグを組んで
謎を追う、みたいなお話があるとすると、相方はべつに幼女じゃなくて頭脳明晰な成人女性
でもいいんだけど、幼女であったほうがちょっぴりキャラ的にオイシイ、という類のエッセンス
であったかもしれません。
でも、空海、よかったです。無敵の法力を持つ超人じゃないところがよかったです。
特に、乗っていた船が転覆した時に空海がああいうふうに感じたところがいいと思いました。
(ああいうふうに、の内容はネタバレになったらいけないので書きませんが)
物語の縦糸が化け猫の謎だとすると、横糸として、密教の教えをなかなか受けられない空海と
「長恨歌」のできに納得できない白居易の人間模様があります。
空海と白居易は二歳違いです。現実にも空海と白居易が長安で青春をともにしていた
かもしれないなぁなどと想像しながら観ると、きゅうんとなりました。
三国志ライター よかミカンの独り言
個人的には、観てよかったぁ~という感想です。
映像がきれいですし、内容はちょっぴり怖いものの空海と白居易が爽やかだったので、
RADWIMPSの主題歌とあいまって、見終わった後の感じがいいんですよ。
以前みたことのあるチェン・カイコー監督の作品は幻想的すぎて私には難解だったのですが、
今回の作品は幻想的な部分が過去の玄宗と楊貴妃の華やかな宴の描写に
つぎ込まれているので、ストーリー自体は難解にならないまま幻想的な気分を味わえ、
とてもよかったです。
ファンタジーが苦手な方も、街並みや演出のディテイルは楽しんで頂けるのではないでしょうか。
私の心はまだ長安に飛んでいます……。
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↑人の目をまっすぐ見ながら思ったことをはっきり言う映画の楊貴妃とイメージぴったり。
↑安史の乱の時におこったすさまじい籠城戦。六万ともいわれた人口がたった400に。
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