孔子とその弟子たちの名言や問答を集めている『論語』にはたくさんの金言が記されています。そんな『論語』の言葉をたくさん覚えて使うことができれば、あなたの言葉はより大きな力を持つようになるでしょう。
たとえば、「人の嫌がることをしてはいけないよ」ということをあなたが誰かに伝える際に「己の欲せざる所、人に施すことなかれ」という『論語』の一節を引用したならば、あなたの言葉の重みは一段と増します。また、『論語』には「義を見てせざるは勇無きなり」や「剛毅朴訥仁に近し」など、座右の銘として掲げるのにふさわしい言葉がたくさんあります。『論語』の言葉はあなたの人間性を豊かにする力をも持っているのです。
あの湯川秀樹も『論語』を暗誦していた
(画像:湯川秀樹Wikipedia)
「論語読みの論語知らず」などという言葉もあるように、いくら暗誦できてもその内容を理解できないのでは意味が無いと考える人も少なくないでしょう。また、「自分で考える力」の重要性が叫ばれる昨今、暗誦というものはナンセンスであると考える人も多いようです。
しかし、日本で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹は、幼い頃から祖父に『論語』をはじめとする漢籍の暗誦教育を施されており、同じように暗誦教育を受けた3人の兄弟たちも全員学者となって東大や京大の教授として活躍しています。暗誦教育について、湯川秀樹はその自伝『旅人―湯川秀樹自伝』(角川文庫、1960年)において苦痛ではあったものの、漢籍を暗誦していたことによって得たものは多いと語っています。
そんな湯川秀樹が受けた祖父からの暗誦教育は、江戸時代に寺子屋で行われていたような「素読」によるものだったそうです。「素読」とは、特に文章の内容に解釈を加えることをせず、ただひたすら声に出して読むということ。
湯川秀樹は訓読点などついていない白文を目の前に置かれ、祖父の範読に続いて、指示棒で指される漢字を目で追いながら、必死で『論語』を読み上げたのだそうです。これを何度も繰り返しているうちに、湯川秀樹は『論語』をはじめとするあらゆる漢籍を暗誦することができるようになったのだとか。
幼い自分にはその内容を理解できなかったと湯川本人は語っていますが「読書百遍義自ずから見る」という言葉もあるように、何度も繰り返し読んでいるうちに、子供ながらに意味が理解できるようになっていったのではないでしょうか。そうして得た『論語』をはじめとする漢籍の知識が湯川秀樹の学問の素地となったことは疑いようのない事実といえるでしょう。
細かく区切って繰り返し読むべし
暗誦のコツは、何度も何度も繰り返し音読するとしか言えません。喉を使って声に出し、その声を耳で聞けば脳がその言葉を大切なものだと認識してくれます。ただ、何度も繰り返し読むといっても、長い文章を一度に覚えようとするのは難しいです。長い文章については、細かく区切って数日に分けて覚えるのが得策です。また、暗誦にかける時間は1日10分ほどにしておきましょう。あまり長すぎると苦痛になってしまいます。
その点『論語』は短い節がたくさん収録されているタイプの書物ですから、暗誦するのにピッタリであると言えますね。
『論語』は暗誦しやすくできている
実は『論語』は、暗誦することを前提として作られた書物なのではないか?と思われるくらいに暗誦しやすくできている書物です。『論語』のどのようなところが暗誦しやすいのかといえば、やはりまず一節一節が短いということが挙げられるでしょう。そして、それに加えて対句表現が巧みに用いられているということも『論語』が覚えやすい所以の1つであると考えられます。
たとえば、「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」という言葉などは、その典型として挙げられるでしょう。このような対句表現を意識すれば、よりスムーズに『論語』の言葉を覚えることができますよ。
三国志ライターchopsticksの独り言
詰め込み教育が否定されるようになり、暗記するということが害悪であるかのように扱われることも増えてきました。しかし、暗誦は知識を身につける上で欠かせない作業と言えるでしょう。
みなさんは小学生の頃、掛け算の九九をその理論を学ぶことによって理解したのでしょうか?ほぼすべての人がそれを暗誦することによって覚え、理解したはずです。暗誦は学問の基礎なのです。そして、学問の基礎を身につけるために暗誦するのに最適なものといえば、やはり『論語』が挙げられるのではないでしょうか。『論語』は学問の基礎となる教養や知識はもちろん、あなたの心の矜持となる言葉をももたらしてくれることでしょう。
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