2019年7月よりNHK総合テレビで放映開始された新作アニメ『ヴィンランド・サガ』、皆さんはもうご覧になりましたでしょうか?
11世初頭の北ヨーロッパを舞台に、ヴァイキングと呼ばれる人々の史実を下敷きに描かれる時代漫画、幸村誠の『ヴィンランド・サガ』を原作とする作品です。
日本人には馴染みの薄い中世ヨーロッパを舞台とするこの作品、中にはちょっととっつきにくいと思っている人もいるかもしれません。
今回は『ヴィンランド・サガ』を10倍楽しめる基礎知識を紹介しましょう。
この記事の目次
実は海賊じゃなかった!! ヴァイキングの意外な正体
ところで、「ヴァイキング」と聞いて皆さんはどんなものを連想しますか?
お笑いコンビとか、お昼のTV番組とか食べ放題レストランなどなど……。
まあ、そういうのも確かにありますが。
歴史上実在した集団としての「ヴァイキング」と言えば、多くの人は「海賊」というイメージを思い浮かべるのではないでしょうか?
確かに、「ヴァイキング」という名称は古くは西暦800年から1050年頃までの約250年間にかけスカンジナビアやバルト海沿岸で活動した武装せん断を指す用語として使用されていました。
しかし、その後の研究により、「ヴァイキング」とはその時代にスカンジナビア・バルト海沿岸の領域に住んでいた人々全体を指す言葉に変容しました。
実は、「ヴァイキング」=「海賊」というイメージは現代では間違った解釈と考えられているのです。
農業と交易を生業としていたヴァイキング
1947年に、イースター島のモアイが、南米インカ文明の巨石文化の影響で造られたという仮説の実証のため、自作の筏「コンティキ号」で南太平洋の航海を行ったことで知られるノルウェーの探検家にして人類学者、トール・ヘイエルダール、ヘイエルダールは自身の研究においてヴァイキングたちが農業や漁業を生業としていたことを記しています。
また、ヴァイキングは高度な航海技術を持っていましたが、これも主に交易に利用されるものであったと考えられています。
海賊集団のイメージが強いヴァイキングですが、実際には彼らによる略奪行為は限定的なものであったとするのが近年の研究結果とされています。ただ実際にヴァイキングが海賊行為を行う集団であったことも事実で、実際に領土の拡大や略奪を目的とした侵攻も行っています。ヴァイキングが侵略行為を行った背景にはキリスト教徒との宗教対立があったとも言われています。
確かに、ヴァイキングが海賊として侵略行為を開始した時期は初代神聖ローマ帝国皇帝、カール大帝(シャルルマーニュ)によるキリスト教徒の異教徒への戦争=ザクセン戦争の時代と重なっているともされ、有力な仮説とされていますが、真相は定かではありません。
いずれにせよ、ヴァイキングはヨーロッパの中世時代に北ヨーロッパを中心に交易を手広く行った民族の総称であり、一般的に流布した海賊のイメージと、その実像が異なることは確かなようです。
ヴァイキングは角つき兜を被っていなかった
もうひとつ。一般的なヴァイキングのイメージで間違いとされる点があります。
それは、ヴァイキングが着用していたとされる角付き兜。
1972年、スウェーデンの作家ルーネル・ヨンソンの児童文学シリーズ『小さなバイキング』を原作としたTVアニメ『小さなバイキングビッケ』が放送され、人気を博しました。
後にドイツを中心にヨーロッパで放送されたこの作品、主人公であるヴァイキングの少年ビッケを始め、登場するキャラクターの多くが角の付いた兜を被っており、日本人の「ヴァイキング=角付き兜」のイメージはこの作品の影響が強いことは間違いないでしょう。
しかし実は、ヴァイキングの遺跡などから角付き兜が発掘された事例はなく、彼らは角の付いた兜は使っていなかったと考えられています。
もともと、角付き兜はケルト人が使っていたもので、古代ローマ時代にケルト人がローマと敵対したことから「北方の異民族」のイメージとしてヴァイキングに対する誤解(ステレオタイプ)を生んだものと考えられています。
『ヴィンランド・サガ』の時代背景
コミック(アニメ)『ヴィンランド・サガ』の舞台となるのは11世紀初頭の北ヨーロッパ。
デンマーク・ノルウェー・イングランドの三国による戦乱の時代です。
デンマーク王スヴェンがイングランドに侵攻、1014年にスヴェン王が戦死すると、その息子クヌートが後を継いで侵攻を続行、イングランドでの勢力を拡大します。2年後の1016年、クヌートはアングロサクソン封建家臣団の推挙を受け手イングランド王に即位します。
その後、1018年に病死した兄ハーラル2世の後を継いでデンマーク王にも即位、更にノルウェーへの侵攻を行い、ついに1028年ノルウェー王の地位にも就くことになります。
三国の王の地位に就いたクヌートは「大王」と呼ばれ、彼が統治した時代、この三国による国家連合は
「北海帝国」と呼ばれることになります。
デンマーク・ノルウェー・イングランド 3つの王国による覇権争いと、それを統一した「大王」クヌート一世。まるで、中世ヨーロッパ版三国志、といったところですね。
サガに描かれたヴィンランド遠征の物語
クヌート1世が活躍した時代、ヴァイキングによる「ヴィンランド」への遠征が数度に渡って行われています。
「ヴィンランド」とは「ブドウの豊かな国」という意味で、北アメリカ大陸を指しているとされ、アイスランド生まれのヴァイキング、「赤毛のエイリーク」の息子とされる人物レイフ・エリクソンが発見したとされています。
ヴァイキングのアメリカ大陸遠征の記録はノルウェー・アイスランドの歴史的出来事を記録したとされる散文作品群「サガ」の中にある『グリーンランド人のサガ』『赤毛のエイリークのサガ』にまとめられています。
この2つのサガに、1010年頃にアメリカ大陸への遠征を行ったソルフィン・カルルセフニ・ソルザルソンという人物が描かれています。このソルフィン・カルルセフニ・ソルザルソンこそが、コミック『ヴィンランド・サガ』の主人公、トルフィン・トルザルソンのモデルとなった人物です。
コミック『ヴィンランド・サガ』の物語
『ヴィンランド・サガ』は、ヴァイキングの少年トルフィン・トルザルソンと、デンマーク王スヴェンの息子、クヌート王子を主人公に描かれる壮大な歴史絵巻です。
クヌート一世による北海帝国建国と、ソルフィン・ソルザルソンによるアメリカ大陸遠征、この2つの歴史的事実を軸に、大幅な創作を加えて描かれる物語となっています。
登場人物は、トルフィンやクヌートを始めとして、レイフ・エリクソンやスヴェン王、クヌートの配下のヴァイキングの首領、のっぽのトルケルなど、歴史上実在したとされる人物が多くいますが、大幅で大胆な脚色によって描かれています。
偉大な戦士であった父、トールズを殺され復讐のために戦いの道に進む少年トルフィン。父王スヴェンに疎まれた内気な王子、クヌート。二人の物語はどのように交錯していくのか。
是非、原作コミックやアニメで確かめてみてください。
『ヴィンランド・サガ』原作コミックの試し読みも!!
『ヴィンランド・サガ』の基礎知識をまとめてみましたがいかがでしたでしょうか?
原作コミック第1巻をネットで無料試し読みすることができます。
これを機会に、是非ご一読してみてくださいね。
HMR隊長が考える『ヴィンランド・サガ』の見どころ
原作者の幸村誠氏は、人類の宇宙進出の物語を描いたSFコミックとそれを原作としたアニメ『プラネテス』でも知られています。
『プラネテス』に描かれていた重要なテーマである「愛」はこの『ヴィンランド・サガ』にも引き継がれ、間違いなくこれが幸村誠作品であると感じさせてくれます。
本編のテーマを暗示する需要なセリフ
「本当の戦士」が果たして何を意味しているのか。これからの展開が楽しみですね。
ちなみに。
食べ放題料理のバイキングですが、本当は「スモーガスボード」と言うんですよ。
知ってました?