2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では、北条時政を演じた坂東弥十郎さんや、北条宗時を演じた片岡愛之助さん、梶原景時を演じた中村獅童さんなど歌舞伎を中心に活躍している方々の出演が目立ちました。
鎌倉殿に限らなくても、近年、歌舞伎役者出身タレントの大河出演は多いような気がします。これはどうしてなんでしょうか?
時代劇を演じられない役者が増えた
一番の理由は、民放で時代劇が激減し役者が時代劇の所作を知らないという事情があるようです。時代劇は和服をつけてカツラをかぶればいいというものではなく、刀の差し方や歩き方、座り方に至るまで決められた所作があります。
例えば、武士が刀を左腰に差しているのは、右手で刀を抜くからですし、同じ理由から鞘に収めた刀を右手で持ち歩く事は決してありません。この状態で敵に襲われたら刀を抜く事が出来ず即座に斬られてしまうからです。
また、日本刀は刃を上向きにして鞘に仕舞われ、同時に湾曲しているので抜く時には鯉口を切ってから鞘を押し下げ傾けないと抜刀しにくい仕組みになっています。もちろん、刀を鞘に収める時も同じです。しかし、これらの時代劇の所作は時代劇の撮影現場で伝承されていくので、時代劇が激減した現在では所作を知らない役者が増えたのは当然でした。
また和服の身に着け方ひとつとっても、和服を着慣れている人とそうでない人では、着こなしがまるで違うものです。これらをギッシリ詰まっている大河の撮影スケジュールの中で一から役者に教えるのは大変な重労働となります。
歌舞伎で鍛えられた役者の即応性
逆に歌舞伎は演目に時代劇が多いので、歌舞伎役者は幼い頃から時代劇に慣れています。撮影スタッフは、時代劇の所作を教えなくて済むので時間の短縮になるのです。また歌舞伎は一面で様式美の世界ですから所作も徹底稽古し舞台に映える美しい動きが出来ます。
そのため、大河ドラマでも重要な役どころの人物には、歌舞伎役者、または狂言師を起用する事でドラマの重厚感をグッと上げようとしているのです。
往年の時代劇スターの活躍
民放で時代劇が制作されなくなった結果、それまで民放の時代劇で活躍していた時代劇俳優が、NHK大河ドラマに起用されるケースも増えています。青天を衝けの冒頭シーンの連続登場で話題になった徳川家康を演じる北大路欣也さんや、鎌倉殿の13人で平清盛を演じた松平健さん、どうする家康で登誉天室を演じる里見浩太朗さんなどがいます。
大河ドラマが時代劇最後の砦に
民放が時代劇をやらない大きな理由としては衣装や小道具にお金がかかるという点も大きいでしょう。NHK大河ドラマでも1話にかかる制作費は6000万円から1億円前後で、その大半が大道具のようなセットや衣装であるようです。
一方で民放のドラマ制作費は俳優の人気や時間帯、スポンサーなどで変動はありますが、平均一話で2000~3000万円で大河の半分です。これではお金がかかる時代劇はなかなか造れないと言えます。
また制作しないので、時代劇に馴染みがある視聴者が少なくなり需要もなくなるという悪循環があるのかも知れませんし、たまに時代劇をやるとしても昨今の1クール体制では、継続して時代劇を撮影できず、やはり技術の蓄積が起きない点もありそう。そう考えるとNHK大河ドラマは日本の時代劇を守る最後の砦になっているとも言えますね。
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