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フェルメールは戦争を描いていた?「窓辺で手紙を読む女」に隠された歴史の暗号

2025年3月11日


 

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世界史 フェルメール 画家

 

 

2022年、フェルメールの絵画作品の一つである『窓辺で手紙を読む女』が注目を浴びています。絵の背景の壁部分に隠されていた「キューピッド」の存在が明らかにされ、修復されて展示公開されたからです。

 

【※『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』(WEBサイト参照:2025年3月1日時点で該当ページは閉鎖されています)

 

 

世間では、それは、愛のキューピッドだと盛り上がっているように見えます。(※つまり、「天使(エンジェル)」ではなく愛を象徴する「神」の存在の「キューピッド」と言われています。エンジェルなら、「神の使い」であり、天使の輪が頭の上に乗っているはずですが、フェルメールの絵のそれには、天使の輪は描かれていないのです。また、何と言っても「弓」を手に持っていることが、キューピッドの象徴なのだそうです。)

 

しかし、その姿は本当に愛のキューピッドとして、当時、その絵を見た人、あるいは人々に受け取られていたのか?あるいは、作者のフェルメールの意図として、それは本当に愛のキューピッドとして描いたものだったのか?

 

筆者には、そのような疑問が出てくるのです。つまり、その絵画が恋愛を想像させるロマンチックな作品だったのか?ということです。描かれている物や、当時の時代背景に注目することで見えてくる部分もあると思います。探ってみましたので、どうぞご一読ください。

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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キューピッドが持っているのは本当に「弓」なのか?

 

まず、キューピッドの存在が、筆者には、恋愛を象徴しないような描き方に見えるのです。その理由は、そのキューピッドが自身の右手で持っている「弓」のようなものから突き止めることができそうです。ここで「弓のような」と表現したことを説明します。本来、キューピッドとは「弓」を持っているのが特徴と言われています。しかし、筆者には、そのフェルメールの「キューピッド」が手に持っているのは、「弓」以外のものにも見えるということなのです。それは「杖」を持っているようにも見えるのです。

 

ここで、「杖」が持つ意味を探ると、キリスト教やユダヤ教の世界で生きている方々にとっては、とても馴染み深く、尊い存在であると見えてきます。つまり、元を辿ると「旧約聖書」に行き着き、それは支配を意味し、「十戒」の「モーセ」の逸話にあるように、「導く」という意味があるようです。あるいは「健康」や「長寿」の象徴とも言われているようです。さらに、古代メソポタミア文明などの「古代オリエント世界」にまで遡ると、杖とは、王が持つべきもので、神から支配権を託されたという意味もあったのです。

 

 

戦争を意識した絵だったのか?

 

その「杖にも弓にも見えるもの」を持つキューピッドが背景に描かれるということは、恋愛というより、もっと広い意味での「愛」を象徴している気がしてくるのです。つまり、「人間愛」や「平和を愛する」という意味合いです。また、そのキューピッドを眺めていると、

 

「正義は勝つ」や「逞しさ」といった強さを感じさせるものにも見えてしまうのです。さらに、そのキューピットが足で仮面を踏みつけているのは、偽善を乗り越える愛の証と言われています。ですから、杖のような弓も、踏みつけられた仮面を含め、我々は正義であり、必ず勝つと言った暗喩で描かれたとも感じるのです。また、描かれている女性が読む手紙は、親愛なる人の生死の報告の手紙か?とも想像させるのです。無事か、亡くなったか、という安否確認の手紙を読んでいるという見方もできると感じさせるのです。そして、「戦争」の勝敗の結果はどうだったか、という意味合いもあったかもしれません。

 

>>フェルメールの名画は『現実逃避』だったのか?戦乱に生きた天才の生涯

 

 

独裁者「クロムウェル」の脅威?

 

つまり、それは、「第一次英蘭戦争(1652年–1654年)」のことでしょうか。前回に書いたように、当時のイギリスは、「イングランド共和国」と呼ばれ、「クロムウェル」が独裁政治をしていた時代でした。(1658年まで)その間、戦争によって領土を拡大させていました。

 

そのクロムウェル統治下の「イングランド共和国」との戦争に、オランダは敗北した直後の頃に、『窓辺で手紙を読む女』は描かれたと言われています。(1657年〜1659年頃)ですから、当時のフェルメールの心の中には、イングランド共和国のクロムウェルが、あるいはその意志を引き継ぐ者たちによる、オランダ侵攻の恐れがあると、感じていたかもしれません。ということは、独裁者のクロムウェルへの抵抗の意思とも思える作品なのです。

 

 

【終わりに】

 

背景のキューピッドの絵が露わになったことで、返って、ラブレターを受け取るという意味合いよりも、命をかけた戦争からの帰還や平和を望む、広い意味での「愛」に変わった印象が筆者にはあるのです。見えない存在だったものが明らかにされたことで新たな解釈が生まれるのはとても興味深いですね。読者の皆さんは、この絵を見て、どのような感想を持たれましたか?

 

 

【主要参考】

・『フェルメール 静けさの謎を解く』( 藤田 令伊 著 / 集英社新書)

・『フェルメール  作品と生涯』(小林頼子 著   /  角川ソフィア文庫)

・WEBサイト『キリスト教文化センター』より野本 真也〔のもと・しんや〕

奨励者紹介    日本キリスト教団賀茂教会牧師

同志社大学名誉教授

・WEBサイト『アートの森』より「ヨハネス・フェルメール 窓辺で手紙を読む女 姿を現したキューピッド

・WEBサイト『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』より

《窓辺で手紙を読む女》の【修復前】と【修復後】のそれぞれ、写真にてご確認できます。

 

【了】

 

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コーノ・ヒロ

歴史好きのライターです。 福祉関係の仕事をしつつ、物書きの仕事も色々としています。 小説や詩なども、ときどき書いています。 よろしくお願いします。 好きな歴史人物 墨子、孫子、達磨、千利休、良寛、正岡子規、 モーツァルト、ドストエフスキー など 何か一言 歴史は、不動の物でなく、 時代の潮流に流される物であると思っています。 それと共に、多くの物語が生まれ、楽しませてくれます。

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