春秋時代に生きた孔子の言葉は、二千数百年後の未来を生きる私たちをも「ハッ」と驚かせるものばかりです。そんな孔子の言葉を学ぶのにとっておきの書物といえば『論語』。『論語』は孔子とその弟子たちの言葉が息遣いさえも感じられるほど生々しく描かれている素晴らしい書物です。
そんな『論語』はこれから会社を起こそうと考えている人や、既に経営者となって活躍している人にも必読書としてよく推薦されています。しかし、なぜ経営者の必読書として『論語』が挙げられるのでしょうか?
経営者の愛読書に名を連ねる『論語』
会社経営を夢見る人の中にはよく書店に平積みされているビジネス本や自己啓発本なんかを手に取って満足している人も少なくないようですが、そんな売れるためだけに書かれた薄っぺらい本を読んでもあなたは良い経営者になることはできないでしょう。そんなものを数百冊集める暇があったら、まずは『論語』を手にとりましょう。実は、優秀な経営者の多くはその愛読書として『論語』の名を挙げています。
その最たる例として挙げられるのが、幕末の動乱期から昭和の時代までを駆け抜けた稀代の大実業家である渋沢栄一です。彼は自身の著書『論語と算盤』において、幼い頃に『論語』から学んだ倫理観が富を築く礎となったと語っています。
道徳観を持たずに私利私欲をむき出しにしていては、一時的な富を築くことができたとして、その富を永続することはできないというのが渋沢の持論です。渋沢は何か新しいことをする際には、仁義道徳にかなうかをまず考え、それにかなうならば更に社会の役に立つかを考え、そうであるならば更に自分の利益になるかを考えたのだそうです。そして、自分の利益になるなら最高だけれど、自分の利益になりそうになくとも、仁義道徳の道にかない、社会に役立つものであるならばその事業を立ち上げると語っています。
『論語』によって培われたこのような彼の心が多くの銀行の設立や、500以上の多種多様の名だたる企業の設立という偉業を成し遂げさせたに違いありません。
『論語』はリーダーのための教科書
『論語』と経営とは一見関係ないように思う人も多いと思いますが、実は『論語』は経営者、すなわちリーダーのための教科書ともいえる書物なのです。
『論語』では、リーダーのことを「君子」という言葉で表現しています。今でこそ君子といえば徳の高い人を指す言葉になっていますが、もともと孔子は人の上に立つリーダーを指す言葉として君子という言葉を使っていました。そもそも孔子は理想のリーダーを求めて各地を旅していた人物ですから、彼の言行録ともいえる『論語』にその理想のリーダー像が描かれていないわけがありません。
人の心を動かす力を身につけるためにはどのような心を持ち、どのような行いを心がけるか。そんなリーダーのリーダーたるべき秘訣をつぶさに教えてくれるのが『論語』という書物なのです。
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経営者が座右の銘にすべき『論語』の言葉
『論語』というものがどれほど経営者にとって重要なものであるかは十分にご理解いただけたと思います。最後に、経営者におすすめの『論語』に見える名言をご紹介しましょう。
1.人にして信なくんば、其の可なることを知らざるなり。
孔子は信用がなければ何もできないと言っています。これは、経営論のいろはの「い」とも言える当たり前のことですが、信用を得るということは如何せん難しいことですよね。このことを常に心の片隅に置き、他者に対して誠実に振る舞うことを心がけていきたいものです。
2.賢を見ては斉しからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省みる。
優秀な人を見てただうらやましがるのではなく、同じくらい優秀になろうと思ったり、残念な人を見てただ馬鹿にするのではなく、自分はそうなっていないかと内省したりすることは自分を高めたり客観視したりするための第一歩です。謙虚な心を忘れない経営者になるべく、この言葉を座右の銘にするのも良いでしょう。
3.君子は諸れを己に求め、小人は緒れを人に求む。
何か悪いことがあったとき、リーダーは原因を自分に求めるが、つまらない人はすぐ人のせいにすると孔子は語っています。良い経営者になりたいのであれば、失敗したときに誰かのせいにするのではなく、自分に何か落ち度が無かったかを省みることができる人になりましょう。
三国志ライターchopsticksの独り言
孔子は常に理想の君主像を胸に抱きながら生きていましたが、そのために絶望することが多かったと言われています。おそらくそれは、その理想を他人に見出そうとしていたからでしょう。しかし、その理想像を自分に見出そうとすれば、渋沢栄一のような成功をおさめることもできるかもしれません。自分の中に明確な自分の理想像を描くためにも『論語』は良き教科書となってくれるのではないでしょうか。
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