「はじめての三国志」の忘年会スペシャル、第二回は日本の戦国時代の忘年会、新年会について解説してみました。3回目にあたる今回は、日本を離れ隣国である台湾と中国の忘年会について解説してみようと思います。中国や台湾では、忘年会を尾牙とか年会と言いますが、日本とは違い新暦ではなく、旧暦の年末に行う事が多いそうで、その内容も日本とはかなり違うようです。
今回は日本とはかなり違う、中国や台湾の忘年会について解説します。
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台湾の尾牙の由来は?
中国の年会は新年会、忘年会なんだろうなと理解できますが、尾牙というのは一体どういう意味なのでしょうか?これは、牙が歯の意味で尾がそのまま尻尾の意味です。つまり、「口から尻尾まで」で一年を著わしているんですね。
では、どうして忘年会を尾牙と言うのか?土着信仰である道教由来の祭事が多い台湾では、昔から商売人は毎月旧暦の1日と15日、または、2日と16日に土地神様である福徳正神、通称土地公にお供えモノをしてお祀りをする習慣がありました。
この福徳様は、元々品行方正な徴税吏であり、貧しい人々の為に多くの善行をして102歳で亡くなったそうですが、死後の霊験があり、やがて多くの人が福徳を求めて祀るようになったようです。道教の典型的な神様ですね。
台湾では商店街などで、店先に小さなテーブルを出して果物やお菓子を並べて供えたり、紙のお金を燃やします。この月に2回、土地公を祀る行事を台湾語で「做牙」と言います。そして、一年を締めくくる旧暦12月16日前後の做牙は尾牙と言い、一年の感謝を込めとりわけ盛大なお祀りをするのです。この時に、土地公に供えた肉、魚、果物を店の経営者が従業員に御馳走するようになり、やがて旧正月前後に経営者が従業員に飲み食いをさせて苦労を労う台湾式の忘年会、尾牙が誕生したのです。
中国本土についての尾牙のルーツは確認できず、土地公についても出てきません。しかし、海峡を隔てすぐの台湾と中国では商人の往来も過去から盛んなので、中国でも土地神にあたる城隍神に対する祀りがルーツと推測されます。
日本の忘年会とは規模が桁違い尾牙・年会
日本の忘年会は、小さな会社を除き大体、会社の各部署の同じ仲間同士がお金を出し合って居酒屋等を予約して、朝まで飲むというパターンが多いですよね?メンバーは多くても十数人で気の合う仲間や職場の直接の上司を中心に行われます。
そのせいで、忘年会と言えど実質は会社業務の延長で、上司に酌をし、おべっかを使い、上手くもないカラオケに拍手するとか、全然自分のペースでは飲めない事が多く、さらに会計は割り勘になるので、最近では6割もの会社員が忘年会なんか消えればいいと回答するほどに不人気になっています。
では、中国や台湾でも忘年会が不人気かというと、これが正反対で毎年大盛況だそうです。理由は中国の年会や尾牙は、会社が主催するのが一般的で費用はすべて会社持ち、そして、従業員は上司に酌をしたり、下手なカラオケに拍手する事もなく、豪華な料理やお酒を飲み喰いするだけの、全くのお客様扱いだとか・・
会社が主催するだけあり尾牙は規模も盛大で、招待される従業員は1000人以上もザラ、そして、本物のタレントや芸能人が登場し歌や踊りで会場を盛り上げます。
さらに圧巻なのは抽選で当たるプレゼントで、自動車やテレビ、洗濯機、最新型のパソコンのような、何百万、何十万円の景品がどんどん飛び出してきます。
そして尾牙の最後はお年玉配り大会、台湾や中国にもお年玉があり、紅包と言いますが、これは上司がポケットマネーで用意し、くじ引きで当たった人にプレゼントされます。金額も数千円みたいな小額ではなく、紅包によっては、ウン十万円が入っている事さえあり、参加者は、お酒が回った異様なテンションで紅包争奪戦に参加します。
紅包が無くなると参加者は追加しろとアンコールを浴びせ、上司陣は泣く泣く追加し参加者全員が紅包を貰えるまでアンコールは止まないそうです。こうして食べて飲んで頂くモノを頂いた従業員は気が済んだところで自由解散、特に上司に挨拶もいりません。
大体の台湾や中国の企業では、翌日から旧正休みという前日に尾牙をするので、従業員は二日酔いを気にする事なく、好きなだけ飲んで食べて騒ぎ、家に帰って朝寝坊できるのです。これなら、忘年会に参加しない方がもったいないですよね?
尾牙や年会が盛大な本当の理由
台湾や中国の企業は、尾牙や年会に膨大な出費を余儀なくされます。
でも、どうしてここまでして自社の従業員を持て成し、いたれり尽くせりの大盤振る舞いをするのでしょうか?「会社の為に一年間よく働いてくれたから」もちろん、それはそうですが、それ以上に切実な理由が存在していました。
旧正月前は、中国や台湾企業にとってボーナスの時期であり同時に一年で一番従業員が辞めてしまうシーズンでもあるのです。つまり、もう仕事を辞める事に決めているし次の就職先も決めているが、折角だからボーナスを貰ってから辞めようという人が多く、新年度から従業員不足になる企業がとても多くなります。
中国では農村部からの出稼ぎ人口が非常に多く、労働力に事欠く事はありませんが、折角入社して仕事を教え熟練した従業員に辞められたのでは大ダメージです。そこで従業員の気持ちを繋ぎ止める為に、過剰なほどに従業員を接待して大奮発し、会社に残ってもらいたいという苦心の策が尾牙だったのです。
日本でも従業員が定着しないと悩んでいる社長さんは多いと思いますが、中国の社長さんの苦労は、これだけ散財しているわけですから、それ以上かも知れませんね。
kawausoの独り言
台湾と中国の忘年会は、道教のお祀りである做牙の年末バージョンである尾牙でした。
元々は土地公を祀って沢山のお供えモノを並べたものを、お店の為に働いてくれた従業員の苦労を労い下げ渡したのが最初で、その後、旧正月前に会社が従業員を労いもてなす行事に変化しました。日本のように、各部署の同僚や上司がこじんまりと酒を飲んで親睦を深める忘年会とは発生した理由が違うようですね。
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