1980年代、『架空戦記』と呼ばれるジャンルの小説がブームになりました。史実を描く歴史小説とは一線を画し、本来の歴史とは違う物語が展開する『架空戦記』、その源流は意外にも古いものでした。
三国志にも、本来の歴史事実とは違う結末を描いたことで有名な小説が存在します。
そのタイトルは『反三国志演義』。一体どのような小説なのでしょうか?
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『架空戦記』とは?
『架空戦記』の源流を辿ると、古代から存在した叙事詩や軍記物などに行き当たります。説話や美談として語り部が史実を脚色して語るその様式は、『三国志演義』にも通じるものといえるでしょう。
日本の架空戦記はいつから?
日本における『架空戦記』の起こりは、明治期に流行した政治小説に見ることが出来ます。特に、日本の海外進出を想定して描かれたものには、将来起こりうる西欧列強を考慮して書かれたものもあったといいます。
SF小説には“現実とは別の歴史を描く”という『歴史改変物』と呼ばれるジャンルの小説が多くありましたが、戦後復興期の日本のSF小説でも、この『歴史改変』は好んで取り入れられました。
1981年に発表された檜山良昭の小説『日本本土決戦』がきっかけとなり、『架空戦記』のブームが起こります。当初は現代の最新装備を持つ軍隊が過去にタイムスリップすると言ったSF的ギミックを組み込んだ作品が多く見受けられましたが、2000年代以降、SF的要素を持たない小説が台頭、『架空戦記』はSFと分離され、新たな小説のジャンルとして成立を見ることになりました。
蜀が勝って勝って勝ちまくる『反三国志演義』
『三国志演義』にも、確かに史実にないエピソードやシーンは多く存在しますが、おおまかな歴史の流れに反したことは描かれてはいません。しかし、史実とは全く別の結末を描き話題を呼んだ“三国志”小説も存在しています。それが『反三国志演義』(通称『反三国志』)です。
『反三国志演義』は20世紀初頭、中華民国の政治家であり小説家でもあった周大荒(しゅうだいこう)が1924年から新聞連載した作品です。『三国志』を始めとする、いわゆる正史はもともとその編さんを行った王朝の正統性を証明する目的で書かれており、その王朝に不都合な事実が改変されていることが多い。
……そのような前提に基いて始まるこの『反三国志演義』は、作者が本来闇に葬られてしまった三国時代の史実を記述した『三国旧志』を入手するところから始まります。
反三国志演義はどんなストーリーなの?
そのストーリーは劉備玄徳が興した国、蜀漢が魏を打ち破って漢王朝を復興するというもの。武将の登場年代が目茶苦茶なことや、かなり荒唐無稽な展開を含む作品ということですが、蜀ファンにはたまらない内容になっているとの事。
(逆に魏ファンは読んでいて胃が痛くなるとか?)政治家でもあった作者が書いた小説ということもあって、政治への隠喩や皮肉も多く含まれている作品となっています。
日本では渡辺精一翻訳の講談社文庫版がネット通販等で今でも入手可能なようです。
興味のある方は読まれて見てはいかがでしょうか?
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