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三国志の時代の人々は、罪人以外は髪を切るという事をしませんでした。
頭髪は人間の生命力の源とされた他に、親からもらった体を傷つけてはならないという
儒教の教えが浸透していたからでした。
ですから、女性のみならず男も髪は産まれてから死ぬまで伸ばし放題で、伸びた髪は
頭のてっぺんで団子にして黒い布を当てて簪を挿し、さらに冠や巾(きれ)で覆いました。
しかし、そのような長い髪は維持するのが大変でした。
特に大変なのは髪を洗う時だったのです。
この記事の目次
洗うだけでなく髪を育てる為に洗髪していた
三国志より400年前の韓非子(かんぴし)という書物には、
「政治は洗髪のようなものだ、脱毛を恐れて髪を生長させる利益を忘れるようでは、
物事の優先順位を弁えているとは言えない」
とあり、髪を洗えば、髪は抜けるが、それ以上に髪を生長させるのだから、
いたずらに抜け毛を恐れては、物事の順番を誤ると言っています。
これは、思いきった改革が痛みを伴うとして躊躇すると、
それにより得られる利益を逃すという比喩として言われたものです。
つまり、当時の洗髪には、髪を清潔に保つのみではなく、髪に栄養を与えて
生長を促す目的もありました。
当時の洗髪には、潘沐(はんもく)というモノを使いましたが、これは米の研ぎ汁でした。
米の研ぎ汁は髪の毛の汚れを落し髪に潤いを与える事から、よく使われていたのです。
洗髪は3日に一度、一日がかりの大仕事だった
しかし、その大事な髪を洗うのは、大変な作業でした。
当時は髪を洗う事を洗沐(せんもく)と言いましたがシャンプーなどなく、
髪は数日経つと汚れが目立つようになり、虱(しらみ)が湧きました。
そのままでは、痒く見た目も悪いので洗髪するのですが何しろ産まれてから
一度も切らない髪です、それは男でも腰まで届きました。
そのような長―い髪を米の研ぎ汁を満たした盥につけて、
まるで洗濯するようにゆっくりと洗っていくのですが、前傾姿勢のままで
長時間、自分の髪と格闘するのは大変な重労働でした。
それだけに大変に面倒くさく、一般人の洗髪は3日に一度、役人は5日に
一度と決められていました。
洗ったら、洗ったで乾かすのが、また面倒・・
さて、腰の痛みに耐えながら、ようやく長い髪を洗い、雑巾のように絞ると
次に待っているのは、乾燥という作業です。
もちろん、布で水分を取る事はしますが、そのままでは生乾きですから、
これで髪を纏めようものなら、すぐにフケが出て虱が湧きます。
ドライヤーがある現代でも、ロングヘアーを乾かすのは簡単ではありません。
ましてや、ドライヤーなどない大昔は、四方を開け放った部屋に座り、
ひたすら髪を風に晒して乾かすのです。
こんな時に、来客でもあろうものなら、もう大変です。
貞子のようなザンバラ髪を振り乱しながら、面会するのですが、
ある時、孔子が、高名な道家の老子を訪れた時、折悪しく老子は髪を洗っており、
その姿は白髪に手足が生えた、化け物にしか見えなかったと書かれています。
参考文献:荘子 著者: 荘子 出版社: 徳間書店 | 発行年月日:1996.08.01
髪が乾いたら、象牙の櫛でブラッシング
数時間を経て髪を乾かすと、次には櫛で髪の毛を梳いていきます。
これは髪の滑りを良くする為であり、身分のある人は象牙の櫛で、
丁寧にブラッシングしていました。
念の為に言っておきますが、女性ばかりではありません。
当時は、おっさんでもそうだったのです。
線の細い軍師ならまだしも、筋骨隆々の武将まで、そうだったのかと思うと
少々、三国志のイメージが変わってしまいますね。
長く、黒々したヒゲ「美鬚眉」が美男の証
番外でヒゲについても紹介しておきましょう。
三国志の時代のイケメンの条件は、顔だけではなく、高い身長と堂々とした態度、
よく通る声、そして長く黒々したヒゲを持つ事でした。
ヒゲが貧相だったり、ヒゲが生えない体質だと顔だけが良くても、
「お前は女のようだ」とからかわれたのです。
三国志の英雄、関羽(かんう)は美髯(びぜん)公と言われ、実際に史実でも
諸葛亮孔明(しょかつ・りょう・こうめい)が「ヒゲ殿」と呼び
魏の二代皇帝、曹叡(そうえい)は、優れた容貌と床に届く長いヒゲを持ちました。
当時、ヒゲの美しいイケメンを美鬚眉(びしゅび)なる者と言っていて、
三国志の時代の末期の魏のイケメン張華(ちょうか)は自慢のヒゲを紙で包んで
チリが付かないようにし、後漢の時代の温序(おんじょ)という人物は、罪を得て
斬首される時に口でヒゲをくわえて剣を受け「ヒゲに土がつかないようにせよ」と
遺言しています。
まさに、三国志の時代の男性には、ヒゲは命より大事だったのです。
参考文献:世説新語
著者: 長尾直茂/目加田 誠 出版社: 明治書院
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