聶政(じょうせい)は韓の厳仲子(げんちゅうし)という人物の殺人依頼を聞いて、
韓の丞相を殺害することに成功します。
彼が厳仲子のお願いを聞いた理由は「男と見込まれたから」と言う単純明快な理由でした。
聶政は韓の丞相殺害に成功するのですが、彼は逃げ出さずに警護兵と奮闘した後に
自らの目玉や顔に傷をつけて誰だかわからないようにしてから自害して亡くなってしまいます。
その後韓では韓の丞相を殺害した謎の人物の姓名を知るために
彼の死体を市中に晒すことにします。
しかし誰も彼の名前を知っている者が現れることはありませんでしたが、
ひとりの女性がこの死体の姓名を知っていると名乗りをあげます。
この人物こそ聶政の姉である聶栄(じょうえい)で、
彼の名前を残すためだけにわざわざ遠いところからやってきたのです。
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噂を聞く
聶政の姉である栄は結婚して幸せに暮らしておりました。
そんなある日一つの噂が耳に入ります。
その噂は「韓で丞相が殺害されてしまったそうだ。
丞相を殺害した人物は顔がぐちゃぐちゃで誰だかわからないので、
この暗殺者の名前を知っている人に千金を与えるとお触れを出しているそうだ」と
いう内容の噂です。
この噂を聞いた栄は家に帰って旅支度をします。
夫は栄が旅支度をしていることに驚き、「どこへ行くんだい」と訪ねます。
すると栄は「これから韓へ言ってきます。」と言って家を飛び出していきます。
遺体を確かめると・・・・
栄は千里以上離れた場所にある韓へ女の一人旅でなんとか到着することに成功します。
そして噂の遺体を発見するとすぐに色々な部位を確かめます。
すると彼女は涙を流しながら大いに悲しみます。
この様子を見つけた韓の役人は「なんだお前は。この遺体の知り合いか」と訪ねます。
涙を流しながら栄は「はい。この人は私の弟である聶政です。」と遺体の氏名を教えます。
役人は彼女が何かを知っているのではないかと考え連行していこうとします。
だが彼女は役人の手を追い払って歩いている人々に向かって
「みなさん聞いてください。私の弟は韓の重臣である厳仲子から男と見込まれたと
言う理由だけで、韓の丞相を殺害しました。
そして弟は暗殺に成功するとたった一人の親類である私に迷惑がかからないようにするために、
自らの顔をこのような姿になるまで痛めつけてから亡くなったのです。」と悲痛な叫びをあげます。
このことを知った役人も彼女の悲痛な叫びに対して同情してしまいます。
そして彼女は役人の警戒が緩んだところで「この弟の名を残すためだけに、
私は遠い国からやってきました。
どうか皆様この弟の名前を覚えていてください。」と述べた後、
懐から取り出した短刀で自らの喉を掻っ切って亡くなってしまいます。
この姿を見た市中の人々は驚きの声を上げてしまいます。
戦国史ライター黒田レンの独り言
聶政は義に厚い人物ですが。
聶政の姉である栄は烈女の部類に入るのではないのでしょうか。
いくらたった一人の身内でも結婚している身でありながら旦那を捨てて、
弟のためにわざわざ果てしない道を歩いて韓へ行き、
彼の遺体のまで言いたいことを述べた後自害するのは並大抵の女性ではできないでしょう。
普通は弟が亡くなっても郷里で墓を建ててあげて供養するのが普通だと思います。
彼女も時代が生んだ烈女と言えるのではないのでしょうか。
姉弟が同じ場所でなくなったことで彼らの名前は各国へ響き渡り、
彼らを知った人々は「弟もすごい人物だが、姉もすごい人だ」と賞賛の声を上げたそうです。
そしてこの姉弟の名前は栄の望み通りに後世にまで残る事になるのです。
始皇帝・政を暗殺しようとした荊軻(けいか)も後世にまでその名を語り継がれており、
もしかしたら宮殿に仕えている文官よりも彼ら暗殺者の方が歴史に名を止めることが
しやすいのですかね。
参考文献 史記 司馬遷 村山孚・竹内良雄訳など
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