婚姻という制度は、現在世界各国にあります。
各国々で文化が異なる中、この制度だけはどの文化でも同じであり、
また示し合わせたかのように古くからその制度があります。
このことからも、結婚とは人類が生きていくために必須の制度であることが分かります。
中国でも当然婚姻という制度はあります。
三国志でもそうした制度があるのは、周知の事実でしょう。
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中国では、死者同士で結婚する!?
しかし、古代中国では、死者同士を結婚させるという、冥婚と呼ばれる儀式がありました。
生きている人々にとって必要とされる婚姻制度を
なぜ死者に対して適用しなければならないのでしょうか。
今回は、冥婚という制度についてご紹介します。
なぜ冥婚を行うのか
死者に対する制度として、葬式というものがあります。
これは死者を弔うための制度です。
では冥婚は何のために行うのでしょうか。
中国では、葬式を執り行う際に決まりがあります。
それは、葬式は親族のみによってしか行うことができません。
そのため、もしも親類がいない者が亡くなった場合、葬儀を行うことはできません。
また、中国では葬式で弔われなかった死者は、生者に災いをもたらすと信じられています。
そこで、未婚の死者を冥婚させることで、一族の祖先に加えることで、
縁者のいない死者を弔うことができます。
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中国の霊魂観
中国の漢民族の霊魂観では、魂魄(読み:こんぱく)の観念があるそうです。
魂は精神を表し、魄は肉体を表すそうです。
この魂魄の考えでは、祖先は子孫から崇拝されると神となりますが、
不十分であると鬼となると考えられています。
弔われ方によって、及ぼす影響が異なります。
そのため、この霊魂観が主な冥婚の理由になっていると考えられます。
死者と生者の位置関係!?
漢民族の宗教的思想によれば、世界は三層構造に分かれていると考えられています。
一番上は、「天」であり、もっとも地位の高いものとされています。
二番目は、地上にいる人全てです。
細かな上下関係はさておき、地上に生きる者は皆この分類に属します。
そして、三番目の最下層である地下には、祖先がいるとされています。
土葬するので、当然と言えば当然ですが、死者は地下にいるのです。
さて、死者は地下にいますが、さきほどの魂魄の考えに基づく、上手に弔われれば、
魂は天に昇り神となり、魄=肉体は地下に埋まるそうです。
さて、弔われず、鬼となると天に昇れず、厄災をもたらすとされています。
冥婚の真の目的
冥婚の目的が死者からの厄災を免れるということにあります。
しかし、実際にはやや異なります。
死者の結婚において、死霊が手厚く葬られて天に昇ったこと、
とか、未婚で亡くなったものが死後に結ばれて満足していること、
等のことは実際には確かめようのないことです。
そうしたことは本来の目的ではありません。
冥婚を行うことで、慰められるのはその遺族です。
死者に対してであっても結婚式を行うことができた、
という事実が遺族の心を癒すのです。
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三国時代における冥婚
三国志では、実際に冥婚が行われています。
曹操(そうそう)の子の一人、曹沖(そうちゅう)がそうでした。
彼は、病で亡くなっています。曹沖(そうちゅう)は、
その才と徳から曹操(そうそう)に大変気に入られていました。
曹操(そうそう)の後継者は、曹丕(そうひ)ですが、曹沖(そうちゅう)が存命であれば、
後継者は曹沖(そうちゅう)であったとも言われています。
それほどまでに曹操(そうそう)は曹沖(そうちゅう)を愛していました。
ところが、曹沖(そうちゅう)は病で亡くなってしまいました。
それを悲しんだ曹操(そうそう)は彼を冥婚させて弔っています。
曹操(そうそう)は、彼からの災いなど恐れておらず、ただ彼を想って冥婚を執り行ったのでしょう。
三国志ライターFMの独り言
曹操(そうそう)も冥婚を行っていたので、
冥婚という制度自体は中国で古くから実在し、施行されているようですね。
中国の宗教観では、信心深いと言いますか、
死者が意思や悪意を持ち厄災をもたらすと信じられてた、
というのは冥婚の分かりやすい理由と思います。
けれども、やはり無念に死んでしまった者のことを悼み、残されたものは彼らを想い、
こうした儀式をするというのが真の理由なのでしょう。
そして、そうした儀式を行うことこそ、残された者達が悲しみを忘れ、
次の一歩を踏み出すために必要だったのでしょう。
櫻井 義秀 著、死者の結婚:祖先崇拝とシャーマニズム、北海道大学出版会(2010)
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