コミュニケーションで重要なのは、話す力や伝える力だと考えられがちですが、円滑な人間関係を構築するためには、「聴く力」こそが最も必要な要素になります。
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※このお話は、三国志に登場する袁術(公路)が、21世紀のビジネスシーンで支持されている様々な「自己啓発」のやり方を学び、実践していく物語になっています。やや、21世紀風のセリフ回しになっている部分はご了承ください。
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袁術くん、孫堅と今後について話す
袁術くんは、四世に渡り三公を輩出したという超超名門である汝南袁氏に生まれました。
父の袁逢は三公の中の司空に就いたことがありましたが、すでに病没し、この世を去っています。
今回は、袁術くんと反董卓連合で共闘した孫堅と話し合いをすることになっています。袁術くんはこの孫堅という人物が苦手でした。何せ自己主張が強く、アグレッシブで負けず嫌い、対話よりも戦いを好むタイプだからです。
孫堅、字は文台。揚州呉郡の出身で、孫武の末裔と自称しています。17歳で、海賊を退治したことから有名になり、郡守に召し出され、郡尉となってから、孫堅はどんどん出世していきました。
黄巾の反乱鎮圧でも活躍し、涼州で起こった反乱には参謀に任じられ、その際に戦果のあがらない董卓を処刑すべきだと進言しています。確かにそこで董卓を処刑していたら、今日の混乱は避けられたかもしれません。
その後は、長沙郡の太守に起用されて区星の反乱を鎮圧、それに呼応した零陵、桂陽の反乱も孫堅自らの独断で、郡境を越えて討伐を断行しています。
反董卓連合が結成されると長沙郡から北上した孫堅は、日頃から侮辱的な扱いを受けていた荊州刺史・王叡を殺害。さらに兵糧の供出に応じなかった南陽郡太守・張咨を策によって討っています。暴力的な問題解決を得意としているのです。
「おお、これはこれは後将軍様(袁術)、今日は拝謁でき、この孫堅、恐悦至極に存じます」
「うん。お久しぶりだね、孫堅殿。あ、いや長沙太守殿」
「何をおっしゃられる。もはやこの孫堅、長沙太守などではございませんぞ。後将軍様の上奏もあり、破虜将軍代行の称号を受け、豫州刺史に任じられてございます」
「そのようなことは……」
「はて、後将軍様、よもやお忘れになったわけではないでしょうな。そういえば、先日、董卓配下の将軍で李傕という者が、先講和の使者として我が陣営に派遣されてきましてな、身内に刺史や太守に任じたい者がいたらいくらでも朝廷に取り次いで登用してやるとか」
「そんな、和議の提案があったのですか? それで、えー、豫州刺史殿はなんとお答えに?」
「漢王室への忠義のためにも、董卓の三族を誅殺するまでこの孫堅は攻め続けるのみ。手など結ばぬ、と追い返しました」
「そうですか。いや、董卓の使者を追い返すとは、さすがは豫州刺史殿です」
「私がご指示を仰ぐのは、漢王室への忠義に篤い後将軍様のみ。私心のためにそれを利用しようとする董卓や袁紹など眼中にもありませんぞ」
「豫州刺史殿の言葉は心強い限りですが、なぜ僕を支持されるのですか?」
「後将軍様は傾聴ができる御方。それこそが万民の声に耳を傾け、天下の政をする者にとって必須でございます」
「傾聴? もう少し詳しく教えてもらってもいいですか」
傾聴とは何か?
「後将軍様は聞き上手。それこそが傾聴の証でございます」
「聞き上手ですか。どういうのが聞き上手なのですか?」
「まずは相手の話しを聞いている最中に、頷きや相槌をよく行われる。これは相手の話しをしっかり受け止めているからこその動作。さらに話し手が不意に話を止めても、後将軍様はじっと待っておられる。この間こそが大切。話し手が自己対話によって、自分の内で整理をしている重要な間です」
「自己対話」
「思考とは頭の中にある間は曖昧なもの。それを言葉にするので、やはり曖昧な点が多いのです。そして話している間に自分の耳でも聞き、整理できるようになる。今まで気が付かなかった状態に気づき、何をすべきか自分で考えるようになる。これが自己対話による成長です」
「なるほど。聞き手に徹することで、話し手は考えを整理できるようになるのですね」
「傾聴とは、ただ相手の話しに耳を傾けるだけではございません。相手の表情を見、心情に寄り添い、全身で聴くことです。そうすることで、深いレベルで相手を理解し、共感することができるのです」
傾聴のやり方と注意点
「傾聴とは、頷きや相槌、静寂の間を大切にすることだけでいいのですか?」
「他にもありますぞ。自己対話を促進するために、相手の言葉をそのまま返す」
「相手の言葉をそのまま返す」
「ええ。しっかりと聞いているというアピールですな。ただオウム返しするわけではなく、その言葉の背景、相手の思いに向き合う必要があります。同じ言葉を繰り返していると単調になりますので、要約して別の表現をして返すという方法もあります。それはパラフレーズと呼ばれるものです」
「しかし、豫州刺史殿、相手の話しに耳を傾けることでは、兄の本初(袁紹の字)も丁寧に行っていると有名ですよ」
「いやいや、袁紹は自分の利があるのかどうかを判断するために話を聞いているに過ぎません。後将軍様の聴く姿勢とはまったく別なものです。しかも袁紹には傾聴ではタブーとされていることを行っている」
「傾聴のタブー。それはいったい、どのようなものなのでしょうか?」
「聞いていると見せかけて、その実、自分の価値観へと誘導することです。傾聴は決して相手にアドバイスをしてはいけません。我慢強く相手の話しを聴き、共感することに徹することが最も重要。正しい意見を言いたがる者には傾聴は難しいのです。袁紹は、自分の信じる価値観を押し付けたがる。相手の自己対話による成長など無縁ですよ」
「どのような話でも意見をせずに聞くだけなのですか?」
「それが難しい。私など他人の話をもたもた聞いていられるような辛抱はありませんからな。しかも、傾聴は相手に共感することはあっても、同情はしてはいけないのです」
「共感はOK、同情はNGですか」
「ええ。聞き手の感情が含まれると、健全な自己対話が阻害されますからな」
まとめ
「今日は豫州刺史殿から貴重な話を聞くことができました」
「それで、私はなぜ呼ばれたのでしょうか?」
「え? そうでした…… 肝心な話をしていなかった」
「後将軍様は、荊州牧に就任した劉表とお会いになったとか。劉表は、荊州にはびこる悪の芽を摘んだ我々を混乱の原因と考えている様子。さらに袁紹と手を結んで、我々を牽制しております」
「我々、ですか」
「喧嘩を売られて買わねば、孫氏の名折れ。後将軍様も、袁氏当主としての立場がありしょう。ここは私が襄陽に向い、劉表と話し合うべきかと」
「話し合い、ですか。豫州刺史殿は、話を聞くのが苦手とおっしゃっていましたが……」
「なに、文句でも言おうものなら劉表の軍勢など木っ端みじんにしてみせましょう!そうすれば袁紹も静かにせざるを得ない。ここはこの孫堅にお任せくだされ!」
「…… なるほど、傾聴とは難しいものですね」
結論
・傾聴とは
- 相手の言葉や表情、心情に寄り添って話を聴くこと。
- 話をしているうちに、自分自身で整理し、解決方法などを発見する。
・傾聴の方法、注意点
- 頷き、相槌、パラフレーズなどでしっかり聞いていることをアピールする。
- 自己対話している間を大切にし、アドバイスをしたり話を誘導したりしない。