キングダムで主人公の信が仕える秦の大王嬴政は漫画でも紹介されていますが、後に始皇帝として歴史に君臨することになります。
恐らく小学校6年生以上ならだれでも学生時代に習った記憶があることでしょう。キングダムでは信のよき理解者として存在し、強い信念を持って秦国内外の敵と対峙しています。そんな嬴政ですが、実際の史実では残酷な皇帝として認識されていますが、どのような人物だったのか見ていきましょう。
キングダムでは作られた悲劇の大王という嬴政
キングダムの嬴政は幼いころに人質として趙に追いやられ、趙の民衆や実の母親に虐待を受けながらも日々我慢を繰り返して過ごしています。
そして呂不韋の手引きのもと命からがら秦に逃げ帰ってきます。このシーンで女商人の紫夏との感動の別れがありますが、実際の嬴政は趙国の護衛を伴って秦へ送り届けられています。
むしろ嬴政の父である荘襄王のほうが、幼少時はかなり劣悪な境遇だったといえ、嬴政のキャラクターを作るために誰からも愛されていない設定を父の荘襄王から取り入れたといえます。嬴政の幼少期にはすでに秦が強大な国家として存在しており、趙国内で太子となった嬴政は他国の手前、丁寧に秦に送られています。
キングダムにおいて過去を美談として扱われた嬴政は、イケメンで中華統一という強い信念があり、敵対する相手を論破していきます。しかし、史記で描かれている嬴政は、幼少期の人質生活が歪んだ思想を育て、他人を信じられないというかなりひねくれた性格となっています。
旧友を罵り、暗殺者の前でタジタジ
嬴政は人質時代に燕の太子丹と知り合いになり、意気投合して友人となりました。キングダムでは趙での時代は母親からも愛されない天涯孤独と描かれていましたが、史実では境遇の似たもの通しということもあって、親しくしていました。
丹が燕からの使節として秦王になった嬴政に挨拶へ訪れ、旧交を温めたいと思っていた矢先に嬴政から冷たくあしらわれます。強大な国と進化していた秦は家臣たちも増長しており、丹は国賓とは思えない冷遇をされてしまいます。嬴政の変貌ぶりにショックを受けた丹は、燕に帰国して秦と戦う決意をします。しかし、燕の国力では太刀打ちできず、嬴政を暗殺するために度胸のある荊軻を刺客として用いました。
この荊軻は話術で嬴政との謁見を実現し、隠し持った凶器で嬴政を追い詰めました。間一髪のところでかわしたものの、尻もちをついた嬴政は臣下たちに使者を捕えるように言い放ちますが、だれも動きません。
キングダムでは昌文君がキレて追いかけそうですが、当時の秦では武器を持って壇上(王の玉座)まで上がるのは禁止されていたのです。荊軻はこれを見越していたのですが、秦の臣下たちは帯剣しているので玉座まで階段を登れず、嬴政は転がりながら逃げ回り、焦りが生じて剣を上手に抜くこともできずにいました。
何とか逃げ回っている内に、素手で登ってきた臣下たちによって助けられ、暗殺は失敗に終わりましたが、怒り狂った嬴政は荊軻を斬り殺し、死んでも手をゆるめず、遺体を切り刻んでいたほどです。絶対にキングダムの政はやりそうにありませんが、史実ではそれだけ暗殺や刺客を常に恐れていたといえます。
—熱き『キングダム』の原点がココに—
刃向う者は基本的に手元に置かない
嬴政の怖いところは反逆に寛容ではないところです。キングダム上では敵を味方につけて力を蓄えていきますが、史実では青春時代に人質となっていたことから疑心の塊であり、敵となる者に対しては容赦しません。
権力争いに打ち勝った呂不韋を自殺に追い込み、嫪毐と太后の間にできた2人の幼き子どもたちは、キングダムでは隠して生かしているものの、史実では嬴政の命令で殺されています。
秦の中では趙の李牧に匹敵する知略と武力を持った総司令の昌平君を、たった一度意見に逆らったというだけで丞相(総理大臣のようなイメージ)から失脚させています。とてもキングダムでは考えられません。
また、秦が趙を攻略した後、人質時代に太后や自分と争っていた趙の民たちを探し出して生き埋めにするという暴挙にも出ています。これもキングダムの政では絶対にやらないでしょう。
極め付けは中華統一後の焚書坑儒です。自身の政治に反感を持つ学者たちの書物をすべて焼き放ち、400人以上の学者を生き埋めにして虐殺しています。これもキングダムでは知性が漂う政が実施するとは考えにくいでしょう。
春秋戦国時代ライター ソーシーの独り言
キングダムではイケメンで品性と知性がある若き王様として活躍している嬴政ですが、実際の史実では疑心の塊で人を信用せず、反乱には容赦しない姿勢を貫いています。
キングダムで大王政を好きになった人には、史実の始皇帝嬴政は好きになれないかもしれませんね。
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