今回は、王騎の副官ととして名高い騰は、どうして強いのに王騎の下にいたのかを考えます。あれだけ強ければ、独立して軍を持っていても不思議はない騰がなぜ、王騎の副官であり続けたのか考えてみます。
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騰は異邦人なのか?
そもそも騰は、派手に異様な容貌をしています。例えるならトランプのキング、金髪でカールの掛かったちょびヒゲを生やしていて、まるで西洋人のようです。キングダムには、変わった容貌どころか仮面を被っている山の民までいますが、基本的には黒髪の東洋人的なキャラクターが多く、逆に燕のオルドや楊端和のような異民族傾向が強いキャラクターは、金髪で彫りが深くなっています。という事は騰も異民族の設定なのかも知れません。
春秋戦国時代の秦に外国人がいなかったかというと、そうでもなく秦の帝都のある咸陽は、後にシルクロードの玄関口となる長安の近くなのです。その為、遊牧民が咸陽に流れ着いたとしても特に不思議はありませんし、同時に秦は、他の六国よりもよそ者については、オープンな国柄で発展してきた国でもあります。もしかすると、騰はそういう裏設定の元で造られたキャラクターなのかも知れません。
騰と王騎に漂う孤独
王騎と騰は見た目は正反対ですが、どちらにも共通する部分があります。それは、王騎も騰も家族のいる様子が一切感じられないし、その描写もない事です。王騎に関しては、かつて結婚を誓った摎が龐煖に斬殺された事で、もう家族は持つまいと決意した感じがします。だからこそ逆に、自らが率いる軍団を家族のように考え、大勢で温泉に浸かるようなスキンシップを大事にしているのではないかと思います。一方の騰もいい年だとは思いますが、家族も子供も恋人の影さえ見えてきません。これを見ると、騰も何らかの理由で独身を貫いているか、元々天涯孤独の身であったものを、王騎に拾われたという事情も見えてきます。
ちょうど、姉を幽蓮に殺害されて希望を失い、復讐だけが生きる糧だった羌瘣が飛信隊という居場所を見つけたように、騰にとっても王騎軍が自分の居場所であり、王騎に仕えて支え続ける事こそが、生きがいだったように感じます。それこそ、六大将軍時代の王騎は、毎日のように生きるか死ぬかの瀬戸際にいたのであり、騰は、それに食らいついていく事で鍛えられたのです。王騎と騰のボケ&突っ込みは、秀逸ですが、そこには、友情を超えた運命共同体的な絆があったのかも知れません。
しかし、その強さに絶大な信頼を置いていた王騎が龐煖に討たれ、王騎が遺言で騰に後を託した時に、王騎を支える傘であった騰は、自らも、また天下の大将軍への道を歩み始めたと考えられます。王騎の死は、蒙武を強くしましたが、騰にとっても新しい方向性を示した衝撃の出来事だったのです。
アンポンタンに見えて賢い騰
王騎に自分に匹敵する武力と言わせしめた騰、そもそも騰本人も、臨武君に挑もうという時に蒙武に自信はあるのか?と問われ、
そんなあやふやなものは口にする意味はない
それよりも確定的なことを言っておいてやろう
蒙武、我が主であった大将軍王騎の死はお前を強くした
そして 私は元から強い
と力強い一言を発して、臨武君を一蹴しています。しかも騰には、王騎以上の才能として先見性という能力があります。
王騎は、心酔していた昭襄王が病死した後に十数年、何事にもやる気を見出せないブランクがありましたが、騰は王騎に付き合いながらも、王騎の死後にも自暴自棄になる事なく、例えば、王騎軍を引き継いでの著雍攻略戦では呉鳳明に対して、もっと騰の力を見せてやれと煽る録鳴未に対して、
私は、この著雍は呉鳳明と私の対決の場とは見ていない。
私はこれから秦軍の武威の一角を担うべき若き才能達が、
桀物、呉鳳明に挑み、その力と名を中華に轟かせる戦いだととらえている
このように述べて、信や王賁のような若い世代が台頭していくためのキャリアを積む戦いだと位置づけています。とぼけた事ばかり言っているようでも、騰は現状把握に熱心で、あるいは、上官である王騎が昭襄王を失い沈んでいる頃でも、着々と情報収集に勤しみ、秦の未来について考えていたかも知れません。
六国の一角を自ら崩す史実の騰
漫画ではすでに、七国の均衡が崩れる時が近づいていると予言している騰ですが、史実では、内史騰として、紀元前231年に韓から割譲された南陽に兵力を率いて駐屯し、翌年の紀元前230年には、一気呵成に韓を攻めて韓王安を生け捕りにして韓を平定します。蒙武に続き二人目の大将軍になった騰が、六国の一角である韓を滅ぼすというのは、なかなか胸アツ展開です。しかし、その後騰の記述は消えてしまう事から、韓を滅亡させた後に、李牧の逆襲に遭い、戦死する可能性も残されています。そうだとしても、王騎から秦を託された男として、後輩の信や王賁の心に響く名言を残して死んでいくのでしょうね。
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