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この記事の目次
早くも失望されるヘリオガバルス
さて、こうして皇帝に即位したヘリオガバルスですが、彼には帝王学もなにもなく名門の大金持ちとして母や祖母に甘やかされただけの美少年でした。
また、祖母のマエサは神官であり皇帝であるヘリオガバルスを元老院が受け入れるように、議事堂のヴィクトーリア女神像の前に神官のローブを纏ったヘリオガバルスの肖像を掲げさせ、元老院議員がヴィクトーリア女神像に捧げ物をする度にヘリオガバルスに頭を下げさせるようにしました。
それ以前から、このオババは、暴君のカラカラ帝や自分を神格化する事を認めさせるなど祭政一致にも程がある要求を元老院に飲ませていたのです。
この為、少年皇帝がローマに向かう前からヘリオガバルスの皇帝の資質には失望の評判が聞かれ、彼を持ち上げた第4軍団「スキュティカ」や第3軍「ガッリカ」は、ローマに進むヘリオガバルス帝の一行を襲撃しますが連携が取れずに自壊しました。
ローマ市民驚愕の女装皇帝
ヘリオガバルスとその一族は、シリアからローマを目指すものの、アンティオキアやニコメディアで長期滞在した上に、反乱もあり、おまけに地元で天から降って来た御神体と信じられた黒い巨大な石をエメサ神殿から運び出したので、到着は遅れに遅れローマ到着は219年の初秋と8カ月程も経過していました。
こうして、やっとローマに入城したヘリオガバルスを見たローマ市民は驚愕します。ヘリオガバルスは、神官の長い紫色のローブに金の刺繍をした衣服を身にまとい、体中に大量の装飾品を身に着け頭には王冠を被り、さらに女装していたからです。
そう!少年の性別は紛れもなく男ですが、倒錯した性的嗜好の持ち主であり、簡単に言うとTHE変態でした。彫像になるような力強く若い皇帝を期待したローマ市民は幻滅し暗澹たる気持ちで一杯になります。祖母マエサと共ににローマへ入城した少年皇帝は、当然のように取り巻きたちを要職に就けて体制を固めて新しい政治を開始しました。
人事は、ただれた性的嗜好を反映し、エメサでヘリオガバルスに忠誠を誓ったローマ軍部隊長エウティキアヌスは近衛隊長に続いて3度の執政官叙任を受け属州総督も2回経験。
さらに、男性の愛人であった奴隷のヒエロクレスを共同皇帝にしようとし失敗したり戦車競技の選手で愛人のゾティクスを皇帝の執事長に任命しています。お友達内閣ならぬ、おホモ達内閣ってところですね。
実権の無い傀儡皇帝
こんな、褒められる部分が一つもないヘリオガバルス帝の初期の治世でも、部分的ながらまともな統治が行われていました。
それは、祖母ユリア・マエサと母ユリア・ソエミアスによる執政が行われていたからです。この野心に満ちた2人の女性は元老院に名誉称号すら要求し、ソエミアスは「クラリッシマ」マエサは「元老院の女神」をそれぞれ授与されています。
つまり、ヘリオガバルスはただの傀儡であり、実際の政治は祖母と母に牛耳られて、何の政治力も発揮できませんでした。しかし、それにヘリオガバルスが屈辱を感じていた様子はありません。
彼は天が与えた皇帝というこの世の頂点の権力を楽しみ、味わい尽くし自分の倒錯した欲望を満たす為に、狂気の快楽に嵌り込んでいくのです。適材適所というか、しかし、それに付き合わされるローマ市民はたまったものではありません。
愛って何?離婚と結婚を繰り返す倒錯皇帝
ヘリオガバルスは、4年弱の短い治世の中で5回の結婚をしています。最初の結婚は、ユリア・コルネリア・パウラというシリアに領地を持つ有力貴族の娘でしたが、ヘリオガバルスの異常性癖に耐えきれず離婚。
二度目の相手は、巫女であったアクウィリア・セウェラで純潔を守らないといけないタブーを平気で破り強姦同然で結婚します。その理由も驚愕のもので、神の巫女と神官の自分がウヒョれば神のような子供が生まれると信じ込んでの事でした。巫女を強姦したと非難囂々のヘリオガバルスですが、こちらも半年で離婚。
次は、美貌で知られたアンニア・アウレリア・ファウスティナと結婚しますが、彼女はセウェル朝の前の王朝のネルウァ=アントニヌス朝の血筋を引いており、王朝同士の連続性を狙ったようでやはり愛情は無関係・・
さらに酷いのは、ファウスティナには夫と一男一女がいたのを、夫を処刑して強引に結婚した事でしょう。もちろん、これも上手く行くはずもなく離婚し、ヘリオガバルスは最初の妻のユリア・コルネリア・パウラと再婚します。
しかし、その年のうちにまたもパウラと離婚。今度は小アジア出身のカリア人奴隷で、しかも男性であるヒエロクレスの「妻」となることを宣言しました。
もう、絶句です。この男にとって結婚はアクセサリーみたいなもんなんでしょうね。
エル・ガバル神殿での熱狂
ヘリオガバルスとは、太陽神エル・ガバルを意味していて、いわばあだ名ペンネームです。その事からヘリオガバルスも太陽神エル・ガバルを信仰し多神教のローマにおいてエル・ガバルを最高神に位置付けようとします。
そこで、ヘリオガバルス帝は「ヘリオガバリウム」と呼ばれる巨大なエル・ガバル神の宮殿をローマのパラティーノの丘に建設。故郷エメサから持ち込んだ、バカデカい黒い隕石を神具として崇拝させ、毎朝、牛や羊が生け贄として捧げました。
ヘリオガバリウムには帝国中の神具や神器が集められ、ここがローマ帝国唯一にして絶対の聖地になるように仕向けられました。ここでヘリオガバルスは神官として割礼を受け、ローマの元老院議員を神殿に呼び出し、自身の神聖な踊りを見るように強要します。
黒い石は御神体として、六頭立ての豪華な馬車に安置され、周囲を走り回り、周囲は屈強な騎兵が護衛し、その背後からは、ヘリオガバルスが騎乗して恭しくそれに付き従ったと当時の歴史家は書いています。独特で異様な宗教熱がヘリオガバルスの治世下で吹き荒れていました。
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