馬謖が山に登った理由は王平を魏のスパイと疑ったせい?投降者王平に向けられた[猜疑心]とは?

2022年11月26日


 

 

山頂に陣を敷いた馬謖

 

 

三国一のアルピニスト馬謖、そんな皮肉が1800年経過しても流布するほど、街亭の失陥は蜀ファンに取って痛い出来事でした。しかし批判される一方で、どうして馬謖が麓ではなく山頂に陣を敷いたのか?

 

 

kawauso

 

 

その動機については多くの憶測がなされるものの決定的な答えは出ていません。もちろん史料が限られる中で、馬謖の本心など永遠に謎なのかも知れませんが、最近、馬謖の山登りについての考察が登場してきました。

 

それはなんと、馬謖は王平の裏切りを恐れて山頂に布陣したというのです。

 

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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馬謖の山登りは王平が原因だった!ザックリ解答

朝まで三国志2017-80 kawauso、禰衡

 

 

 

では、忙しくて、記事をゆっくり読んでいられない方向けに、馬謖の山登りは王平が原因だったという説をザックリと解説しましょう。

 

1 街亭周辺は異民族が多く住み蜀・魏両国に日和見した
2 王平が馬謖の副官なのは街亭付近に住んでいたから
3 魏の張郃は巴西の板楯蛮をまとめ街亭に移住させた
4 王平は街亭の板楯蛮を説得して蜀につけようとし失敗。
5 馬謖は王平が裏切る事を恐れ山頂に布陣した。
6 張コウは麓の水源を断ち馬謖軍は総崩れで逃走。
皮肉にも王平が地元民として踏ん張った
7 陳寿は父が馬謖の副官なので街亭の戦略的失敗を
馬謖個人の戦術的失敗とし問題の矮小化を図った。

 

ザックリまとめると、馬謖は王平が板楯蛮出身の異民族であるために、張郃に寝返るのではないかと怯え、諫めも聞かず防御力の高い山頂に布陣したという事です。さて、以後は、それぞれの項目をより詳しく解説しましょう。

 

 

 

 

王平は何者?

王平は四龍将

 

 

王平は字を子均と言い、巴西宕渠の人です。西暦215年、曹操が張魯討伐の為に漢中に侵攻、張魯は一度は巴に逃げた後に曹操に降伏します。この時の巴には杜濩・朴胡という板楯蛮の支配者がいて、曹操に巴西郡太守や巴東郡太守に任命されています。

 

 

板楯蛮(異民族)

 

 

ところが間もなく巴郡は劉備の攻撃を受けて敗北、曹操は漢中を完全放棄する前に、杜濩・朴胡等、板楯蛮を移動させました。王平も杜濩・朴胡と共に洛陽に向かって校尉の地位を与えられたとされます。

 

 

三国志の武器 虎戦車 諸葛亮孔明

 

 

しかし、『曹魏の関隴領有と諸葛亮の第一次「北伐」』を書いた並木淳哉氏の指摘によると、王平等が向かったのは洛陽ではなく街亭に近い略陽であろうと指摘しています。

 

 

長安(俯瞰で見た漢の時代の大都市)

 

 

検索してみると略陽は漢中市に位置する県で、街亭古戦場がある天水市奉安県に近く、板楯蛮は、この広大な土地に点々と他の異民族と共に入植していたと考えられます。

 

 

蜀の皇帝に即位した劉備

 

 

王平は、街亭に移住後、西暦219年の定軍山の戦いを含む漢中攻防戦のいずれかの時に劉備軍に降伏し、牙門将・裨将軍に任命を受け、以後は死ぬまで蜀に忠誠を尽くしました。

 

 

 

街亭の戦いで王平が馬謖の副官になったのは?

馬謖の副将として配属される王平

 

 

街亭の戦いの際、馬謖が指揮官であり王平が副官だった事はよく知られています。ですが、西暦219年前後に蜀に降ってから、ろくに手柄が無い王平が、どうして馬謖の副官のポジションを与えられたかも考える必要があるでしょう。

 

 

孔明

 

 

それはつまり、諸葛亮が王平に街亭付近の板楯蛮を扇動して味方につける事を期待したから、と考えるのが無理が無い動機ではないでしょうか?

 

 

手柄を立てる張コウ(張郃)

 

 

諸葛亮の期待を受けた王平ですが、街亭周辺の板楯蛮の取り込みには失敗します。そして、馬謖や王平にとって最悪の情報がもたらされます。街亭に向けて魏の張郃が出撃したという情報がもたらされるのです。

 

 

 

 

板楯蛮の親玉、張郃が街亭に出撃

張コウ 張郃

 

 

どうして、張郃の出撃に馬謖や王平が慌てたのか?

 

それは、巴郡で劉備の攻撃を受けた板楯蛮を収容して略陽に移送した魏の将軍こそが張郃だったからです。特に馬謖は張郃の出撃にパニックになります。

 

王平の街亭付近の板楯蛮扇動は失敗におわり、そこに王平や巴郡板楯蛮の元の上司である張郃が出撃してきたのですから当然です。何より馬謖が恐れたのは、目の前の王平が張郃に寝返る事でした。

 

 

馬謖の山登りに反対する王平

 

 

王平は諸葛亮に命じられたように街亭の麓に陣を敷いて水を断たれないように守るべしと強く諫言しますが、王平を信頼していない馬謖は耳を貸さず、もっとも防御力がある山上への布陣を決断しました。

 

 

戦うどころではなかった馬謖

敵に囲まれる馬謖

 

 

山上に布陣した馬謖ですが、疑心暗鬼に駆られ、もう戦うどころではありません。そして、張郃軍に麓を取り囲まれ水を断たれると、大敗走を開始しました。

 

 

馬謖の陣形に笑う張コウ

 

 

馬謖には張郃軍のみならず、麓の山川草木全てが敵に見えたかも知れません。味方を見捨て逃げる馬謖と幕僚に蜀兵は士気を失い総崩れしますが、地元民である王平だけは敵味方を冷静に見分けて踏みとどまり、千人の決死隊と張郃軍を一定程度、足止めする事が出来ました。

 

馬謖の失態は命令無視以上に、張郃サイドに王平も含めた板楯蛮が寝返り、自分に襲い掛かるのではないか?という恐怖心によるものだった可能性があります。

 

 

 

陳寿の曲筆が馬謖を追い落とす

正史三国志を執筆する陳寿

 

 

さて、これだけであれば、街亭の敗戦の責任が馬謖だけに由来するのではなく、街亭周辺の異民族や板楯蛮の取り込みに失敗した諸葛亮や蜀首脳部の責任でもあるとも言えます。しかし、それでは困る人物がいました。

 

父親が王平と同じく巴西の出身だった歴史家陳寿です。馬謖の副官には、王平と名前が伝わらない陳寿の父がいましたが、王平とは対照的に陳寿の父は?刑に処され髪を剃られていました。

 

 

弩(ど)を発射させる蜀兵士達

 

 

つまり陳寿の父は、馬謖同様に板楯蛮の寝返りを疑い、戦いもせずに敗走した幕僚だったのではないかと推測されます。

 

そして陳寿としては父の不名誉を記録する事が出来ず、筆を曲げ板楯蛮の動向を一切書かず、全責任を「登山して水を断たれたアホな馬謖」に押し付けたのではないでしょうか?

 

 

 

 

三国志ライターkawausoの独り言

kawauso 三国志

 

 

第一次北伐では諸葛亮は扇動と敵勢力の離反に重きを置いています。孟達に寝返るように促したり、天水、南安、安定の住民が蜀に呼応して太守が逃げ出すなど、その計略はズバズバ的中していました。

 

 

夜の五丈原で悲しそうにしている孔明

 

 

それだけに諸葛孔明は、街亭周辺も王平が上手くやって板楯蛮を味方につけてくれると考えていたのかも知れません。しかし、終わってみれば王平の工作は成功せず、逆に魏の張郃の出撃で馬謖が疑心暗鬼に陥り、王平を退けて登山してしまうという逆の結果を生んでしまったのです。

 

 

犬猫に襲われる孔明

 

 

この辺り孔明は「策士策に溺れる」を実践してしまったのではないかとkawausoは思います。

 

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台湾より南、フィリピンよりは北の南の島出身、「はじめての三国志」の創業メンバーで古すぎる株。もう、葉っぱがボロボロなので抜く事は困難。本当は三国志より幕末が好きというのは公然のヒミツ。三国志は正史から入ったので、実は演義を書く方がずっと神経を使う天邪鬼。

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