中国人の女の子と三国志談義で盛り上がっていた時のことです。三国志の中で誰が一番好きかと聞かれ、呂布(りょふ)だと答えたら、相手の女の子が突然くねくねと身じろぎをし始めて、「ああ~、呂布ね~。ハンサムだものね~。もうっ、メンクイなんだからっ!」と二の腕にパシッと
ツッコミを入れられて、面食らったことがあります。……中国では、呂布ってハンサムキャラなんですか!? 背景を探ってみた!
日本での呂布のイメージ:デカッ!
呂布といえば、剛勇無双のイメージがありますが、ハンサムというよりは「デカッ!」ってイメージじゃないでしょうかね。ゲームの真・三國無双シリーズの呂布は「え、これが呂布?」とは誰も思わないキャラクターデザインで、日本人の呂布に対するイメージをよく表していますが、「ハンサム」よりは「デカッ!」です。
真・三國無双8の呂布を見ると、さほど目立ってマッチョなわけでも太っちょなわけでもありませんが、身長が高く(雑兵との身長差が他のキャラクターより大きい)筋骨がしっかりしていそうで、頭にくっついてる長い鳥の羽根みたいな飾りがピローンとたなびいていて、鎧の太股を守る部分が横にバーンと広がっていて、長くてでっかい武器を斜めに持っていて、「ちょっと奉先(ほうせん。呂布のあざな)、一人で幅とりすぎだよ!」って感じです。顔は仁王様似の男前で、ハンサムな優男ではないですね。
ギザギザ眉毛のおっかないお顔です。ああいう風采の人がズシーンズシーンと歩いてきたら、私は決して「キャーッ、奉先さま~!」と近づいていったりはせずに「りょ、呂布だー!」ってスタコラサッサと逃げますな。
中国での呂布のイメージ:色白インテリ風の優男
中国では古くからお芝居で三国志が取り上げられているので、中国の歌舞伎のような「雑劇」での呂布を見れば中国における呂布のイメージが分ると思います。ということで、呂布が劉備(りゅうび)・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)の三兄弟と戦う演目「三英戦呂布」を見てみますと、……なんですかこれは。
優男ですぜ。ほっそりとした俳優さんが、白塗りの顔にピンクのアイシャドウを付けて、柳の葉のような涼しげな眉を描いて演じております。インテリ文官の役にありがちなメイクですよ。服装は、プラチナ色の長い上着をタイトに着込んで、裾のチラ見え赤ズボンがちょっぴりセクシー。冑(かぶと)にはピンクのぽんぽんがついていて、左右の耳のあたりに長い黒髪が一房ずつピューッと垂れていて、女の子みたいです。横でモリモリと鎧を着込んでいる関羽や張飛と対照的です。これで最強だったら惚れてまうやろー!
三国志演義での描写
三国志演義ではどういう描写がされているのでしょうか。初登場シーンを見ると、こう書かれています。
生得器宇軒昂、威風凜凜、手執方天画戟、怒目而視。
(軒昂たる容姿、威風凜々、手に方天画戟(ほうてんがげき)を持ち、目を怒らせている。)
これだと、おっかないイメージしかないですね。これは毛宗崗本(もうそうこうぼん)と呼ばれる三国志演義から抜粋しましたが、もう少し古い李卓吾評本(りたくごひょうほん)と呼ばれる三国志演義にはこんなふうに書いてあります↓
身長一丈、腰大十囲、弓馬閑熟、眉目清秀。
(背丈は一丈、腰は十抱えもあり、弓馬に習熟し、顔立ちが清らかで秀でている。)
おっ、ハンサム要素発見!「顔立ちが清らかで秀でている」ですと!古い三国志演義には、ハンサム描写があったんですね。後に毛宗崗(もうそうこう)さんが三国志演義の荒唐無稽要素を削って編纂し直した時に、ハンサムをカットしたようです。毛宗崗は三国志演義を真面目な読み物として世に送り出そうとしていたので、「最強なのにハンサム」なんていう扇情的な要素は不適切だと見なしたのでしょう。
三国志ライター よかミカンの独り言
ああ残念。ハンサムは残しておいて欲しかったなぁ……。中国では三国志演義成立以前からお芝居で三国志のお話が親しまれてきたので、毛宗崗以前のハンサム要素ありのイメージがそのまま定着しているんですね。
一方、日本で三国志のお話が広まったのは江戸時代で、毛宗崗より後の時代ですし、李卓吾評本を読んだとしても文字を通してなのでビジュアルをイメージしづらく、最強キャラという設定から日本人が従来持っている武蔵坊弁慶のイメージなんかと混同してハンサムが抜け落ちたのでしょう。女子のみなさんは、中国の人とお話してる時に呂布が好きだと言ったらメンクイだと勘違いされるので気をつけて下さいね!
▼こちらもどうぞ
呂布は知将?呂布の知略によって袁術軍はフルボッコにされていた