蜀の宰相・諸葛亮が書いたと言われてきた『将苑』という兵法書があります。現代では、後人が諸葛亮に仮託して書いた偽書であるとされています。偽書であるとすれば、きっと諸葛亮のことをよく知っている諸葛亮マニアが書いたのでしょう。
劉備が息子の劉禅にオススメした兵法書『六韜』に似た雰囲気でなかなか面白い兵法書です。本日は、この『将苑』から、人物鑑定7つの方法をご紹介いたします。
さっそく読んでみる
『将苑』で人物鑑定法が説明される箇所では、まず人物を見分ける難しさが書かれています。
それ人の性を知るよりも察し難きはなし。美悪すでに殊なれども、情貌一ならず。
温良にして詐をなす者あり、外恭にして内欺なる者あり、外勇にして内怯なる者あり、力を尽くして忠ならざる者あり。
【訳】
人物を見分けることほど難しいことはない。見た目と中身は違うものだ。善良そうに見えて人を騙す者、恭しい態度をとりながら人を欺く者、勇敢そうに見えて臆病な者、力を尽くしているように見せかけながら誠意のない者。
人物鑑定7つの方法
このように人物を見分けることの難しさを説いてから、「然れども人を知るの道に七あり」と言って、次のような文章が続きます。
一に曰く、これに問うに是非をもってしてその志を観る
二に曰く、これを窮せしむるに辞弁をもってしてその変を観る
三に曰く、これに咨るに計謀をもってしてその識を観る
四に曰く、これに告ぐるに禍難をもってしてその勇を観る
五に曰く、これを酔わしむるに酒をもってしてその性を観る
六に曰く、これに臨むに利をもってしてその廉を観る
七に曰く、これに期するに事をもってしてその信を観る
【訳】
一、善悪の判断について質問をして志のありかを見る
二、言葉で追い詰めて反応を見る
三、計略について意見を求めて見識のほどを見る
四、難しい課題を与えて果敢さを見る
五、酒に酔わせて本性を見る
六、金品で釣って廉潔であるかどうかを見る
七、仕事を言いつけて、言いつけ通りに仕事をこなすか見る
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お説はごもっともですが……
いかがでしょうか。なかなかよさげな7つの方法ですが、こう言われてすぐに実地に役立てることは難しいのではないでしょうか。現代のビジネス書だと、「一、きわどい質問で本性を暴け!」みたいな項目名の後に、具体的にどんな質問をするかという例が書かれていませんかね。
で、こう答えた場合はこういう人だからこう対処する、みたいなのを、答えのパターン別に整理してくれるのではないでしょうか。1項目あたり見開き2ページくらい使って説明しますよ、きっと。あと、7項目では多すぎるので、内容の似通っている1~3はまとめて1つにするだろうと思います。また、「六、金品で釣って廉潔であるかどうかを見る」は、コンプライアンスを重んじる現代においては実地で試すことは難しいので、
六と七は合体させて、決められた手順で仕事をこなす人かどうかを見極めるというまとめ方をすればいいかと思います。現代的にビジネス書映えする形でまとめると、次のような4項目に集約できると思います。
一、きわどい質問で本性を暴け!
二、無理難題にチャレンジする人、かわす人
三、酔ったときに出る本当の姿
四、自己流やずるいやり方に目を光らせよ
実地に役立てるには
この人物鑑定法を実地に役立てるにはどうすればいいでしょうか。項目別に考えてみましょう。
【一、きわどい質問で本性を暴け!】
自分がわざと極端な発言をしてみて、相手の反応をみればいいのではないでしょうか。
相手の人が「過激だなぁ~」なんて言うようなら、相手が常識的な人だと分かります。
逆に、自分の極端発言に対してノリノリで相づちを打つようだと、その人はアブナイ人か、そうでなければ口先だけで誰にでも調子を合わせる
信用ならぬ人だと分かります。
この試し方をすると自分がアブナイ人だと疑われかねませんが……。
「いやぁ、冗談冗談、はっはっは」ってごまかしておけばいいんでしょうかね。
これを上手にできる自信のある方は、試してみて下さい。
【二、無理難題にチャレンジする人、かわす人】
相手に無理難題を言いつけてみて、相手がどう対処するかを見ればいいのではないでしょうか。
自分で工夫をしてガッツでやり遂げちゃう人もいいですが、話を振られた瞬間に無茶言いやがってバカじゃねえかという反応をしてくれる人も
いいと思います。
この条件でできるのはここまでです、とか、要望通りにやるにはあとこれとこれが必要ですとか、きっぱり言ってくれる人とは
仕事がしやすいはずです。
曖昧な表情で仕事を引き受けてしまって、締め切り直前になってやっぱりできません、無茶すぎます、って泣き言を言ってくるような人には
要注意です。
【三、酔ったときに出る本当の姿】
『将苑』では酒を飲ませてみて本性を探れと言っていると思いますが、現代では人に飲酒を強要することは難しいため、
この項目はもし機会があればという程度に受け取るしかないですね。
お酒を飲んだ時に性格がめちゃくちゃ悪くなったり問題行動をおこしたりする人がいたら、酒の上でのことだから気にすることはないと
軽く考えないほうがいいでしょう。
この人の中にはこういう部分もあって普段は理性で押さえ込んでいるのだなと思っておいて、日頃から悪い癖が出ないように
配慮してあげるといいのではないでしょうか。
【四、自己流やずるいやり方に目を光らせよ】
スタッフの創意工夫を重んじてのびのびと力を発揮してもらうことをよしとする職場もありそうですが、『将苑』の考え方では、
言われた通りに仕事をする人材をよしとするようです。
このあたりは法治主義者の諸葛亮の考え方を反映していそうですね。
一人の超人のスタンドプレーに頼って業績を上げるようなやり方をしていると、その人が抜けた時に誰も真似をできずに
ガタガタになってしまいますから、超能力を封印して当たり前のやり方をきっちりできる人を使ったほうがよいという考え方でしょう。
ずるいやり方については、原文ではお金に汚くないかどうかを問題にしているようです。
仕事をする過程で、ポッケナイナイしても誰も気付かなさそうなお金があった場合に、それを「こんなお金がありましたけど」と相談してくるのか、
それとも黙ってポッケに入れちゃうのか、そういうところで見分ければよいのではないでしょうか。
三国志ライター よかミカンの独り言
『将苑』の人物鑑定法を私の言葉でまとめてみましたが、これだと全く権威がないので、もし内容がお気にめしましたら
ぜひ書き下し文のほうを覚えてご利用になってみて下さい。
【使い方の例1】
“この人はどんな人だろう。ちょっと質問攻めにしてやろうかな。「これを窮せしむるに辞弁をもってしてその変を観る」だ!”
【使い方の例2】
“口先だけの人じゃないか知りたいから難しい仕事でもやらせてみようかな。「これに告ぐるに禍難をもってしてその勇を観る」だ!”
参考:守屋洋(もりやひろし)『諸葛孔明の兵法』徳間書店 1977年4月10日
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