三国志のドラマや漫画を見ていると、かんむりに長~いかんざしを横ざまにぶっさしたようなヘンテコ帽子を被っている文官がちょいちょい出てきますよね? ああいう冠は、獬豸冠(かいちかん)と言うのです。そして、それをかぶることは、正義と公正を旨とする気合いの入った司法官のあかし!
ビジュアルは残ってない
残念ながら、古代の獬豸冠の絵は残っていないようで、「長~いかんざしを横ざまに」というのは後代の人による想像です。中国の伝説上の神獣に獬豸(かいち)という一角獣がいまして、獬豸冠はその神獣の角をデザインに取り入れたものです。三国志の頃には、司法官の制服に取り入れられていました。
神獣「獬豸(かいち)」とは?
獬豸(かいち)のビジュアルも時代によってまちまちで、麒麟(きりん)のようだったり牛のようだったり羊のようだったりします。共通する特徴は、ひたいから生える一本の鋭い角。キャラ的にはこの角さえあれば大丈夫なんじゃないかな。
賢くて、人の言葉が分り、また、理非曲直を正確に判断できる異能者です。人がもめている現場に行くと、理が通っていない方の当事者を自慢の一本角で突き殺してしまうんですって。おお怖。(いつも公明正大な人は恐れる必要ないですね!)
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なぜ司法官の制服に?
いさかいの時に、どちらの言い分が間違っているかを正確に判断できる獬豸は、正義や公正の象徴となりました。いつも正義感を持って公正公平な裁きをしましょう、ということで、獬豸の姿が司法官の制服に取り入れられたんですね。
キングダムで有名な秦(しん)の頃から(秦のほうがキングダムより有名?)、獬豸冠は御史(ぎょし)、廷尉(ていい)の制服となっていました。御史は監察官、廷尉は裁判、刑罰などを司るお仕事です。いずれも正義、公正が求められるお仕事です。
あのトンデモ督郵(とくゆう)も獬豸冠!
ところで。三国志演義で、黄巾賊(こうきんぞく)の討伐戦で手柄を立てた劉備(りゅうび)が安熹県(あんきけん)の尉(い)という、ちっぽけな町の武装警察長官に任命されて、お仕事がんばって地元の人たちの評判もよく町も治まり調子よくやっていたところへ、督郵(とくゆう)とかいう監察官がやってきた話があります。
その督郵が腐った奴で、劉備に暗にわいろを要求し、わいろをよこさないとお前のことを上に悪く報告しちゃうからねっていう態度をとったら、劉備の弟分の張飛(ちょうひ)が激怒して督郵を柱に縛りつけて棒で滅多打ちにし、劉備は半死半生の督郵の首に自分の県尉の官印をぶら下げて、「へっ、こんな役職いらねえや。あばよっ!」という感じで逃げちゃったという、劉備オヤビン若き日の武勇伝(正史では、督郵を叩きのめしたのもオヤビン)。
その、僕が腐ってるのはそんな仕打ちをされるほど悪いことだったのですか、他のみんなも腐ってるのに、トホホ……な残念キャラの督郵さんですが、1990年代に中国の中央電視台が制作したテレビドラマの「三国演義」では、あの獬豸冠を被っているんですよ! 正義と公正のあかしの!
たしかに、督郵は監察官ですからね……。獬豸冠は制服です。おお、獬豸冠、地に堕ちたり。
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三国志ライター よかミカンの独り言
制服になってしまえば、公正な人も腐った人もみいんな獬豸冠をかぶることになるわけですが、本来は、ジャキーンと尖ったいかめしい角のついた冠をかぶることで、自分も司法官として正義・公正を旨として頑張るぞ、っていう気持ちでお仕事してもらうためのものだったのでしょう。
実際、獬豸冠の重みを意識しながら公平無私で職務にはげんだ偉い司法官もきっといたことでしょう(と信じたい。いや、信じる)!余談ですが、獬豸という神獣、浅田次郎の短編集『姫椿』の中の「獬(シエ)」というお話に出てくる「シエ」ですね、たぶん。
鈴子を癒やしてくれる「シエ」がどうして理非曲直を判断できる神獣であるのか、というところが、浅田ワールドなんですな、きっと。
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