『列子』は「朝三暮四」や「杞憂」のお話が載っている道家の思想書です。
道家というと、老荘思想とか仙人とかのイメージがありますよね。
『列子』にはそのイメージに違わぬぶっ飛んだ逸話がたくさん載っています。
それを読者様にご紹介したいと思い、あらためて読んでみたところ、序文に興味深いことが書いてありました。
三国時代が終焉を迎えてから20年あまり後に起こった「永嘉の乱」の時、南方へ避難する知識人たちがいかにして貴重な書籍を守ろうとしたか垣間見ることができますよ!
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『列子』はどんな本?
『列子』は戦国時代の道家の思想家・列禦寇という人があらわしたと言われている本ですが、内容的に説があっちこっちに行ってしまっており、文章の書き方にも統一性がありません。
列子の学派が作ったものに後代あれこれ加筆されていったと考えられています。(諸説あり)
今のような形にまとまったのは漢~晋の頃だろうと言われています。
東晋の張湛が持っていたものが伝わっており、それには張湛の序文が付いています。
この張湛の序文に、永嘉の乱の苦労話が書かれております。
永嘉の乱とは?
三国志の時代にはすでに北方の異民族は漢族にとって無視できないほどの力を持っていましたが、三国を統一した晋王朝の時代には、晋王朝から独立して国を作る勢力もではじめました。
晋の皇族の内乱「八王の乱」で天下が乱れていたことが大きな要因です。
ついには異民族が都を占拠する事態となり、晋では大勢の人が南方へ向けて避難しました。
この頃の混乱を永嘉の乱と呼びます。
永嘉の乱は三国時代の終焉から二十数年後に始まり、十年前後もの間続きました。
異民族にとらわれた晋の愍帝が処刑され、江南にいた皇族の司馬睿が即位しましたが、これより前を西晋、これ以降を東晋と呼びます。
東晋は建業(改名して建康)を都として江南にかまえられた王朝です。
北方は異民族が支配していました。(五胡十六国時代~南北朝時代)
書籍を残そうとする努力
張湛は東晋の学者です。東晋に仕えて中書侍郎、光禄勳になりました。
さて、張湛の序文の前半部分をかいつまんで要約すると、次のようなことが書いてあります。
王粲の蔵書と張湛の家の蔵書を合わせると一万巻近くもあった。
傅敷と劉陶と張湛の祖父は幼少の頃から珍しい書物があると聞けば書き写しに行っていた。
(※王粲は建安七氏の一人。王氏、傅氏、劉氏、張氏は姻戚関係)
永嘉の乱で南方へ避難する際、張湛の祖父は傅敷と行動をともにした。
各自の力に合わせて荷車に積む書籍の量を配分したが、途中で全ての書物を運びきることはできないと判断し、珍しい書籍だけをより抜いて持ち運ぶことにした。
傅敷は祖父・傅玄と父・傅咸の『子集』だけを持参した。
張湛の祖父が書き写した書籍の中には『列子』八篇があった。
江南に着くまで残っていた書籍はわずかで、『列子』では楊朱・説符の二篇と目録の三巻だけしか残っていなかった。
劉陶が揚州刺史になると、まず長江を渡って家に帰り、『列子』の四巻を得た。
続いて王弼の娘婿の趙季子の家からも六巻を得ることができた。
これらをつきあわせてようやく復元することができた。
永嘉の乱の頃に江南へ避難した人たちの逸話には、道中で行き倒れや誘拐、強盗などに遭遇した話がたくさんあります。
張湛の祖父たちはそんなヒャッハーな世界の中で、苦労しながら書類を持ち運んだのですね。
そうして、残った書籍をつきあわせて復元するという作業をしたそうです。
当時の世相と、知識人たちの真摯さが忍ばれるような話です。
(『列子』には偽書説もあります。仮に偽書であるとしても、この序文からは、当時の知識人たちに書籍を散逸させずに残そうとするという行動様式があったことがうかがえます)
『列子』の内容
張湛の序文の後半では、『列子』の内容についてのコメントがあります。
いろいろ書いてありますが、最後のほうだけ要約します。
『列子』の明らかにするところは仏典と共通している部分もあるが、多くは老荘に属している。
特に『荘子(そうじ)』と似ており、『荘子』『慎到(しんとう)』『韓非子(かんぴし)』『尸子(しし)』『淮南子(えなんじ)』『玄示(げんし)』『旨帰(しき)』などは、多くその言辞を引いている。
このため注釈を付けることにした。
ベースは老荘だけど、いろんな要素を含んでいるということですね。
『列子』は戦国時代から魏晋までのいろんな考え方がミックスされ熟成されたものであるようです。
三国志ライター よかミカンの独り言
老荘をベースとして、戦国時代からのいろいろな考え方がミックスされている奇書『列子』
晋の時代の知識人たちが、混乱の中でも守り伝えなければならないと考えたような本です。
これを読めば、晋代の人々の考え方を理解するのに役立つこと請け合いです。
他の記事で『列子』に載録されている逸話をいくつかご紹介させて頂きます。
そちらもお楽しみ頂けると幸いです!
参考文献: 小林勝人訳注 『列子』 岩波文庫 1987年1月29日
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