最近、にわかに脚光を浴びている弓矢兄弟仁＆淡、特に兄貴の方は、雷雲隊の十槍の一人、平秀の腕を射抜いて我呂を救いました。春秋戦国時代に元猟師の弓矢兄弟、違和感のない取り合わせですが、キングダムの時代に弓矢兄弟のような存在は本当にいたのでしょうか？
今回も重箱の隅を突いてみようと思います。
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監修者
kawauso 編集長（石原 昌光）
「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。
コンテンツ制作責任者
おとぼけ（田畑 雄貴）
PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。
弓矢兄弟の弓は半弓
弓矢兄弟なので、矢を放っているコマは多くあるのですが、なかなか全身に比較して弓の長さが分かるようなコマは少ないのですが、キングダム492話の成長への募兵で射撃試験で弓を放つ蒼仁のロングショットがあったので見てみると、弓は短弓でした。弓は大きく長弓と短弓に別れていて、この中で短弓は中国北部の乾燥した地域に多く、長弓は長江より以南のモンスーン気候の湿潤地帯に分布しています。これから考えると、弓矢兄弟の得物の弓は半弓なので出身は長江よりも北になりやや乾燥した土地で狩猟をしていた事になります。
飛信隊がどこで募兵をしていたのかは不明ですが、咸陽の王宮にいる秦王政に、ちょくちょく会っている様子を見ると渭水盆地に住居を持っていると考えられます。ここは長安に近く、シルクロードの玄関口で気候も乾燥しています。そうしてみると、弓矢兄弟が短弓を使っているのは理に適っています。
中華十弓の白麗の弓は長弓
一方で中華十弓に数えられる白麗の弓は、弓矢兄弟の弓よりもかなり長いように見えます。白麗は楚人なので、モンスーン気候の湿潤地帯に住んでいて弓もその伝統で長くなっているのかも知れません。
短弓の飛距離
では、弓矢兄弟の矢の飛距離についてはどうでしょうか？
キングダムの492話では、体力試験に落ちた弓矢兄弟に信が声を掛け色々悶着があった挙句、通常の倍の距離の的に当てたら合格という条件で再試験をする事になります。
ここで弓矢兄弟は、通常の十倍の飛距離を飛んで的に命中させて河了貂と信を仰天させました。10倍と言っても元の距離が不明なので、なんとも言えませんが、仮に元の距離を50メートルだとしても500メートルになります。しかし、短弓は飛距離を犠牲にして速射性を高めたものであり多くは騎乗して弓を扱いました。騎兵の機動力で飛距離のハンデを解消しようとしたのでしょう。だから飛距離500メートルとしたら漫画の誇張だと言えます。
長弓の一種である世界最長の日本の和弓でも飛距離は120メートルが精一杯だったようです。京都の三十三間堂の通し矢競技は江戸時代には120メートルの位置に的があったそうで当時の名人が競って120メートルという事は、その辺りが長弓で矢を飛ばせる限界でしょう。
これも長弓のケースですから短弓で500メートルはかなり難しいと思われます。
弓矢兄弟の弓は複合弓かも知れない
弓の射程距離500メートルなんてあり得ないと書きましたが、それは弓矢兄弟の弓が木で出来た単弓だった場合です。もし、それが複合弓だった場合には、短弓でも数百メートル飛んだかも知れません。複合弓とは、木製の弓の外側に動物の腱などの弾力性がある素材、弓の内側に動物の角や骨を張り付けて膠で固めたものです。
これだと、弓の外側にゴム、弓の内側にバネを内蔵したも同然になり、木材の弾力の時の何倍も遠くまで矢を飛ばす事が可能です。オスマントルコの騎兵が常備したトルコ弓は、この複合弓の完成形で飛距離は400メートルから600メートルにも及んだそうです。
一方で中国でも、斉の国都のあった淄博市で前漢時代の王墓の陪葬坑が発掘されそこから青銅と骨製の2種類の弓弭が出土しています。弓弭とは、弓の先端に被せるソケット型の道具で複合弓の一部です。前漢時代は、キングダムの時代に近く、弓矢兄弟の弓も素朴な単弓ではなく複合弓であったなら、トルコ弓とまではいかなくても、500メートルも不可能ではないかも知れません。
ただ、複合弓も無敵ではなく、雨が降ると膠が溶けて弓がバラバラになるので使えず、また一張造るだけで一年は掛かるので量産できませんでした。でも、漫画で見る限り弓矢兄弟の弓は木を曲げただけの単弓にしか見えないんですよね、あーこりゃこりゃ
短弓の長所は速射性
短弓の長所は速射性で古代ペルシャ軍は騎馬弓兵を使ったようですが、その騎兵は一分間に30本の矢を放つ事が出来たと言われています。つまり、二秒に一本、これはかなりの脅威になったでしょう。漫画でも朱海平原の戦いの終盤は蒼仁が頻繁に矢を放っているシーンがあります。手の平の骨が見えるくらいらしいので、何百本と放っているのでしょう。地味ですが弓矢兄弟のお陰で飛信隊は、かなり敵の数を減らして有利な戦いをしているのかも知れません。
キングダム（春秋戦国時代）ライターkawausoの独り言
kawausoが調べてみた結果ですが、弓矢兄弟はキングダムの時代に充分存在しうると判定しました。こうして考えてみると、キングダムの作者は結構考えて、キャラクターを練っている事が分かりますね。
参考文献：中央ユーラシアの複合弓―匈奴勃興以前の草原地帯東部を中心として―髙濱 秀
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