映画、ドラマ、漫画の世界で定番の記憶喪失。自分の事も周りの人間関係も全て忘れてしまうというドラマチックな病気は格好の題材で、今後も手を変え品を変え使われ続けていくでしょう。
でも、私達は病気としての記憶喪失を、どの程度知っているんでしょうか?
今回は知っているようで知らない、記憶喪失のリアルを解説します。
※ご注意:この記事は医学エンタメです。あくまでも娯楽としてお楽しみ下さい。記憶喪失についての専門的知見は当記事では一切保障できません。
この記事の目次
記憶喪失には簡単にはなれない
ところで皆さんは、記憶喪失が1年間でどの程度発生するかご存知ですか?
1万件、10万件、もしかして100万件?
いえいえ、どちらも全然違っていて、記憶喪失になる人間は、年に数十人程度、中でも全くの身元不明者となると年に数件しかなく、精神医学会でも「最も発症例が少ない病気」として知られています。
交通死亡事故でさえ、年間に3500件は起きていますから、交通事故死するよりも記憶喪失に遭遇する方が千倍も難しいのです。記憶喪失は、自分がなることも目撃する事もまずアリエナイ病気なんですね。
頭を打っても記憶喪失にはならない
ドラマや映画、漫画では、主人公が頭部に強い打撃を受けて記憶を失うみたいなシーンが、割合頻繁に出てきます。例えば、最愛の恋人や家族を置いて失踪した人が、見知らぬ土地で別人になって生活していて、よく見ると頭に大きな傷痕があり、それが記憶喪失の原因だった!なんて恋愛ドラマにはありがちですよね?
しかし、実際の記憶喪失は心的要因が100%、つまり頭を殴られて記憶喪失になる事はアリエナイのです。あれは、ドラマや映画のフィクションなんですね。
もちろん、同じように頭部にショックを与えれば記憶が戻るなんてギャグマンガでしかなく、現実にはあり得ません。
記憶喪失は10代後半から20代男性が一番多い
実際に記憶喪失になった人の統計を取ると、男女比では男2:女1で男性が記憶喪失になる確率が高く、また、記憶喪失になりやすいのは10代後半から20代が最多だそうです。
さらに、記憶喪失になった人の90%は3カ月以内には、元の記憶を回復するそうです。よくドラマなどで医師が記憶喪失になった患者の近親者などに、
「彼女の記憶が戻るかどうかは…神に委ねるしかありません」なーんて、深刻な表情で告げるのはアリエナイとは言えなくても、ちょっと演出過剰とは言えるかも知れません。
記憶喪失はどうやって起きる?
では、記憶喪失とは、どうやって起きるのでしょう?
実は記憶喪失とは、脳の緊急避難であり、受け入れられない辛い記憶に直面した時に、脳が精神崩壊を回避する為に、一時的に記憶をどこかに隠してしまうのだそうです。
このことは、つまり、失った記憶を迂闊によみがえらせるのが、当人の為にならないケースがある事を意味していて、実際、記憶喪失の人が記憶を取り戻した前後では、慎重な経過観察が必要になるそうです。
記憶喪失は5種類
記憶喪失には5種類あります。
①限局性健忘
ものすごく嫌な事があった時期に発生した出来事を思い出せなくなる。事件や事故に巻き込まれた記憶や、戦争体験などがすっぽり抜け落ちたりする。一般的にもよく起きる現象です。
②選択的健忘
起きた事件のごく一部だけが思い出せない。記憶の中で特定の一部分が消えてしまうケースです。恨みは覚えているのに、具体的になにをされたかは忘れている等
③全般性健忘
いわゆる、「ここはどこ?私は誰」状態。自分に関係するすべての記憶を失います。私達が一般に記憶喪失と読んでいるものです。
④持続性健忘
特定の時点から後の事が思い出せなくなるケースです。耐えられないほどに酷い目にあうと、そこから先の記憶が失われ、時間の経過まで忘れるので、本当は20歳でも私は17歳と思っていたり、重い時には幼児になったりします。
映画や漫画、ドラマで、よく使用される設定でもあります。
⑤系統的健忘
記憶の中のあるカテゴリーだけがすっぽり消えてしまうケースです。
友達の中である1人の友達の事だけを忘れてしまったり、ほかの事は全て覚えているのに、恋人の事だけは忘れているなど、これだと忘れられた人がダメージを受けそうです。
どうして、記憶喪失者は何も持っていないの?
映画やドラマなどでは、記憶を失った人が衣服以外はカバンも財布もスマホも持ってなく、誰もいない山の中や海岸で目を覚ますみたいなシチュエーションがありますよね?
いかにもドラマや映画のご都合主義に見えるアレですが、実際にある事なのだそうです。
記憶喪失は現実からの逃走なので、記憶喪失者は記憶を思い出しそうな場所から離れようとして、わけもなく走り出し、記憶にまつわる事を棄てる為にスマホも財布もカバンも無意識に放り出してしまうのだそうです。そして同時に解離性同一性障害、つまり別人格が誕生する事もあります。
記憶喪失からの回復
では、記憶を失った後、ひとはどうやって記憶を回復していくのでしょう?
これも5段階に分かれています。
①意識障害期
「ここはどこ?わたしは誰?」と言う状態で、意識水準が低く、徘徊したり奇妙な行動を取ったりする意識障害が見られます。
②無知受動期
活動性が低下した受け身な態度で、周囲の言いなりになりやすいです。生活史のみならず一般知識にも障害が出る事があり、非常識な行動を起こす不思議ちゃんになるケースもあります。
③記憶回復期
徐々に記憶の一部を取り戻していく時期
④情緒安定期
元の人格が戻ると、逆に記憶喪失期の記憶を黒歴史として、関心を示さなくなります。記憶喪失期に仲良くなった人に対しても急に冷たい態度を取ったりします。
⑤回復後抑鬱期
記憶を完全に取り戻すと、すべてに対して悲観的になり将来に対し絶望する事も、時には自殺や自殺未遂を引き起こす事もあり、自殺しなくても鬱症状を発症する事があり、引き続き、治療が必要です。
記憶喪失者にやってはいけない事!
ここまで、ゆるい都市伝説を見て頂いた方はお気づきでしょうが、記憶喪失者に絶対やってはいけない事は記憶を取り戻す手伝いです。
記憶喪失は心因性であり、当人はその記憶が辛く、忘れたいから忘れたのであり、それを素人が思い出させようとするのは、大惨事に繋がる可能性があります。もし記憶喪失者を見つけたら、病院に連れて行き、然るべき治療を受けさせるのがベストなのです。
まとめ
今回は間違いだらけの記憶喪失について取り上げました。
記憶喪失は希少な病気なので、遭遇する事も自身がなる事もまずないでしょうけど、今回の動画を心の片隅に留めておくと、いざという時に…でも、こんな都市伝説、自分が記憶喪失になったら真っ先に忘れそうですね。
参考文献:アリエナイ医学事典 三才ブックス
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