曹操とその側近たちのほとんどが亡き後、魏の人材といえば、ほとんど司馬懿の独壇場になってきます。
孟達鎮圧も、遼東平定も、孔明との対決も、ぜんぶ司馬懿が一人でやっている。けれども、ここで注意しなければいけないことがあります。
三国時代の最終的な勝者は司馬一族であり、特に「正史」はその晋政権下で編纂されたので、どうやらいちいち司馬一族に気を使っているらしい、ということ。つまり司馬一族が格好いい挿話は、だいたい真偽について「くさい」とみてよい。
司馬懿がハイスペックであったことは事実だろうとしても、彼と同格だったはずの魏の重臣たちがボンクラ揃いに見えるのは、どうも、くさい。
曹丕以降の曹一族がイマイチ扱いなのも、呉質が人格破綻者扱いなのも、曹真一派が奇人変人だらけと描かれているのも、どうも、くさい。
疑い出せばキリがなく、孔明の大活躍すら、「でもこんなに強い孔明と互角だったウチのおじいちゃんって凄いでしょ?」と言いたいがための司馬一族の意向が入ってそうで、これすら、どうも、くさい。
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司馬懿も手を出せなかった陳羣と、劉邦も手を出せなかった蕭何がダブる
だがそんな中でも、陳羣の功績だけは、どうしても隠し切れなかった模様です。正史三国志でもその他の三国志伝承でも、悪口らしいものはほとんど見当たりません。せいぜい、「陳羣は官僚として有能な人なんだから、戦争のことは任せちゃだめだ」程度の牽制球が飛ぶくらい。
そして、功績としては、あまりにも地味ではありますが、並べてみると、なかなかのもの!よく読むと、内治や外交でいろいろ活躍しているのです。
「目立たないことばかりしているけれども、よく見るとトップ実績」というのは、楚漢戦争の人物である蕭何と、なんとなく、ダブります。
そういえば、楚漢戦争についても、項羽を倒した後は劉邦軍内部の粛清の物語になってしまいますが、かつての功臣をどんどん始末した劉邦も、けっきょく蕭何だけは生き残らせています(紆余曲折はあったけれども)。
他国の歴史を見ても、戦争で華々しかった功臣というものはだいたい後で消され、蕭何や陳羣タイプの功臣は生き残る、ということなのかもしれませんね。皆様、過酷な現実世界で、活躍しつつも長生きしたければ、できるだけ陳羣タイプを目指しましょう!
「でも陳羣タイプって、どんなタイプ?」と思った人。
以下で、整理していきますね!
関連記事:陳羣(ちんぐん)って九品官人法以外の実績ってあるの?
陳羣は最強の人事部長である!
・・・ってことだと思います。
彼の功績を並べてみましょう。
・陳羣が『採用するな』と言っていた人を採用したら、案の定、ひどい人材だった
・「郭嘉は優秀だけど行いは最低だから示しをつけたほうがいい」という、みんなが思っていたけれども言いにくいことを曹操に誠実に忠告していた
・そんな陳羣本人は、たしかに品行方正だったので、曹操も反論できなかった
・曹丕が漢王朝を廃止して魏王朝をたてた時の庶事庶務をてきぱき片づけていたのはこの人
・それでいて漢王朝の残臣たちから、特に恨まれたような形跡もない
・好悪の感情を仕事に一切入れないため、政敵からも一目おかれていたということらしい
・その後の中国歴代王朝にも採用されることになる人事登用~昇進システムを考案し導入したという、決定的な功績で歴史に名を残している
最後のが有名な「九品官人法」で、その後三百年くらい、実際に機能した官僚制度です。著書を残している三国志の人物というのは何人かいますが、政治システムを後世に残しているというのは、別格の観がある。戦争で十勝するよりも、ひょっとしたらこのほうが、すごいことかも。
よしんば司馬懿のような人がいる組織の中でも、安泰に生きてためには?
なんとなく見えてきましたね。長生きするなら人事部長。特に、組織の採用~昇進制度を自分で作って握ってしまえば、もう怖いものはない。
よしんばライバルが司馬懿みたいなハイスペック爺さんだったとしてもです。
ただし、本人が品行方正でないといけない。「人事部長自身の生活がだらしないじゃん」と言われないように潔癖に生きなければいけない。
これが一番、難しいことかもしれませんが。
三国志ライターYASHIROの独り言
え?
「自分はやっぱり、地味な陳羣よりも、司馬懿の生き方のほうがいい!」って?
「司馬懿のポジションに成り代わる人材として認められるのが、男の道だ!」って?
もちろん、止めはしません。それも、立派な、考え方でしょう。
ですが「司馬懿くらいのことなら俺だってできるんだぜ?」としゃしゃり出て、司馬懿の真似をして蜀攻めをしてみて微妙な結果になった挙句、けっきょくはその司馬懿に抹殺され、歴史書には「クーデターで負けた際の降伏の仕方も含めていろいろグダグダなオッサンだった」というひどいイメージで描かれることになった、
曹爽という悲惨な事例があることを、くれぐれもお忘れなく、、、。
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