三国志を読んでいると、儒教(じゅきょう)の教養を身につけた
立派な人物が大勢出てきます。儒教の始祖の孔子(こうし)は
怪力乱神を語らずと言っていたから、三国時代の人たちもあまり
荒唐無稽な話なんてしなかったんだろうな、と、
三国志を読み始めたばかりの頃の私は思い込んでおりました。
ところがどっこい。
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怪力乱心めじろおし
三国志の頃って、オカルト話がたくさん出回っていたみたいです。
魏(ぎ)の皇帝曹丕(そうひ)が著したと言われる『列異伝(れついでん)』や、
魏の次の晋(しん)の時代に干宝(かんぽう)が著したという
『捜神記(そうじんき)』には、たくさんのオカルト話が収録されています。
本になるほどその手の話がゴロゴロしていたってことです。
当時のみなさん、よっぽどお好きだったんですね。
キョンシー? 死者が蘇って元カレと結婚して裁判に
そんな本に収録されてるお話なんて、どうせデタラメな
空想ばっかりでしょ? と思いきや、やけに具体的で、
当時の人たちが本気で信じていた(というか本当にあった?)
らしいお話が『捜神記』にあります。あらすじは……
晋(しん)の恵帝(けいてい)の時代、河間郡(かかんぐん)に
将来を誓い合った恋人がいたが、男が従軍中に女は両親に迫られ
よその家に嫁がされ、まもなく病死した。軍務から戻った男が
事の顛末を聞き、女の墓参りに行ったが、情にたえず墓を暴いて
棺桶を開けたところ、女が蘇生したため自分の妻とした。
後に、その話を伝え聞いた元夫が自分の妻だから返せと言い、
互いに譲らず裁判となった。郡や県の地方裁判では決着が付かず、
廷尉府(ていいふ)の案件となった。秘書郎(ひしょろう)の
王導(おうどう)は朝廷にこう奏上した。「男の真心が天地を
感動させたために死んだ者が生き返ったのであって、これは
特殊なケースです。通常のセオリーで裁くことはできません。
墓を暴いた者にお返し下さい」朝廷はその奏上に従った。
恵帝とか河間郡とか王導とか。時期、土地、登場人物がはっきり
書かれていますよね。同時代人の干宝が編纂した書物で、
王導さんがこう言ってましたなんて話を勝手に作るわけには
いかないから、実際に記録が残っていたはずです。
この話、正史である『晋書(しんじょ)』にも載っているんですよ!
みんな、お墓から生き返ったなんて話を信じていたらしい。
王導さんは大真面目に裁いたらしい……。
【奇想天外な夢の共演が実現 はじめての架空戦記】
アンドロイド? 周(しゅう)の穆王(ぼくおう)のおもちゃ
周(しゅう)の穆王(ぼくおう)は周に実際にいた五代目の王様
なのですが、三国志の時代には穆王をモデルにした面白話がいろいろ
出回っていて、翼の生えた馬に乗ったり仙女の西王母(せいおうぼ)の家に
遊びに行ったりしたファンタジーの主人公になっていました。
その穆王が西域で出会った職人に見せてもらった人形の話が
『列子(れっし)』に載っているのですが、これはちょっと
SFっぽくて興味深いです。
歩いたり上を向いたり下を向いたりする様は人間そのもの。
職人があごを動かせば歌い、手を上げればリズムに合わせて躍る。
王は本物の人間だと思い、夫人たちと観覧していると、夫人に
めくばせをしたから王は激怒した。職人は恐れて人形を分解して
王に見せた。革、木、膠(にかわ)、漆(うるし)などに彩色を
施して作ってあるもので、肝臓、胆嚢、心肺、脾臓、腎臓、胃腸、
筋骨、関節やすじ、皮、毛、歯、髪など、人体にあるもの全てを
代用品で作ってあった。穆王は「人間の技術で造物主と同じこと
ができるのか」と感心した。
この話は嘘っぽいですが、空想科学小説の走りみたいで面白いですよね。
これが載っている『列子』も、三国時代の人たちがよく知っている話が
収録されている本です。
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三国志の時代はちっともお堅くなくて、みなさんオカルト、SF、
ファンタジーなどを楽しんでいたんですね。
もし世界の片隅で1ページ目からキョンシーだのアンドロイドだのと
書いてあるおバカな三国志小説を見かけたら、
そいつは案外ガチなやつかもしれませんぜ……。
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