皆さんは、世界の歴史を動かしたのは、何だと思いますか?
経済に関心がある人は通貨や黄金や銀と言うかも知れませんし、文学畑の人はそれは人間の飽くなき夢と野望と言うかも知れません。もちろん、その二つも間違いではありませんが、それよりも何よりも切実に人類の歴史に影響を与えたのは塩なのです。
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命に匹敵する塩の価値
塩は化学的にはナトリウムと言い、人間が唯一摂取できる鉱物です。このナトリウム人体で生産できず、外から摂取するしかありません。ナトリウムが不足すると体内の水分や消化液の量が減少し、血液循環が悪化、低血圧、頭痛、嘔吐等が起こり筋力が低下します。またナトリウムが急激に減少すると筋肉がけいれんし昏睡状態に陥る事もあります。
現在でこそ、イオン交換膜と電気エネルギーを利用してかん水を採り真空蒸発缶で煮詰めるだけで安価で大量に手に入るようになった塩ですが、かつては海水か塩井、岩塩に頼るしかなく、また、塩の資源は世界に不公平に遍在していました。
海水に含まれる塩は1 リットル30g しかなく僅かに3%でした。これを薪で沸かして塩を造るには膨大な木材と人員が必要であり、コストが非常に高くつきました。塩が採れない国の人々にとり、それは大袈裟でなく命に直結する問題なのです。
外交の道具だった塩
また、塩は冷蔵庫のない時代、食品保存に欠かす事が出来ない存在でしたし、古代のトラックや戦車に相当する牛馬は人間の5倍から10倍の塩を摂取しないと生きられません。古代ローマから大英帝国イギリス、独立戦争時のアメリカまで塩を重視し、塩を安定供給する為に血眼になったのです。塩を豊富に持つ国にとって、塩を対価に他国に譲歩を迫るのは有効な武器でした。
自国で塩を賄えない国は、なんとか自給率を上げようと必死になります。塩は一国の安全保障において、重要なウェイトを占めていました。そして、絶対に人体に必要な塩は、貴重な財源としてしばしば国の専売制にされ、庶民は高い塩を買わされて苦しめられる事もありました。中国の歴代王朝は、塩を主要な財源とし、高い塩に民衆が蜂起し王朝が倒れる事さえあったのです。
つまり、塩こそは人類の歴史を動かした知られざる影の主役だったのです。さあ、ダイヤよりも黄金よりも、銀よりも人に渇望され、人心を魅了した塩の歴史を学んでみましょう。