妖怪ブームの昨今、『山海経(せんがいきょう)』という本の名前を聞く機会があると思います。
日本の妖怪の原像とも言える様々な魑魅魍魎が載っているこの本、実際どういう内容だったかといいますと、ざっくりいうと「地理書」です。
山海経の成立はいつ?
成立はおそらく東周の頃(B.C771~)で、その後様々な人の手により加筆・編集され、前漢の学者劉キンが朝廷へ奏上した時には32編を校訂し18編構成でした。『漢書』の芸文史(朝廷の蔵書目録)には13編、『隋書』では18巻、と記録されています。現在では18巻というのが通説となっています。ちなみに「経」という字が付きますがいわゆるお経ではなく、「典籍」という意味です。
山海経はどんな内容なの?
内容は絵図に合わせて文章を載せるスタイルで、〇〇地域の地誌、動植物、鉱物、山岳信仰の祭祀、神話や妖怪を記していく方法をとっています。中華の範囲だけでなく、隣接する国や地域の事に関しても触れており、日本列島らしき地域も「倭」「蓋国」として記されています。妖怪と言っても、古い神様や想像上の生き物以外に、明らかに「これ今でもいる動物だろ」ってものも載っていたりします。
山海経にテナガザル?
例えばテナガザル。中国に多く生息しますが、少し南下した東南アジア地域には尾がすばらしく長いテナガザルが居ます。この尾を表現する言葉として「ヒョウのよう(にしなやかで長い)な尻尾」と記されています。伝え聞いた言葉を絵にした結果、何だか妖怪じみたものが描かれてしまいました。また山羊(羊と同一視されています)系の妖怪で、角がたくさんある4ツ足のものが描かれますが、これも実際に居る6本角の種類の山羊を伝え聞いたら…こんなになっちゃった…よし姿が恐ろしいから人を食べる事にしよう…という連想ゲームだろうなとしか考えられない記述もあります。
山海経から読み取る古代中華の考え方
現在その内容は当然奇書扱いですが、重要なのは儒教・道教が確立する前の、中華での古い信仰や考え方が記されていることです。この本を読む時は内容を鵜呑みにするのではなく、古代中華の人々の「考え方」を読み取ること。秦~漢にかけて内容が整理されていったようですから、後漢~三国時代の人々も当然存在は知っていたでしょうし、民間伝承も載っていますから、学の無い(というと言いすぎか)武将達でも「ああ、あの妖怪ね」と知っていたかもしれません。
残念なのは、絵図と合わせての山海経なのに絵の部分は後世に描かれたものだということ。文と内容だけが伝わり、絵に関しては明以降の学者の想像がかなり入っているそうです。やはり絵図まで正確に伝えるとなると大変だったのでしょうね。
山海経は日本語訳でも出版されている
山海経は日本語訳も1000円程度で出版されていて手に入りやすくなっています。少し違った角度から三国志の世界を識る材料として読んでみるのも楽しいですよ。