刎頸の交わり(ふんけいのまじわり)のことわざが生まれたのは、
廉頗(れんぱ)と藺相如(りんそうじょ)が仲たがいから仲直りしたことがきっかけです。
このことわざは共に首をはねられても悔いのないほどの親しい間柄を指す言葉として有名ですが、
楚漢戦争時代にもこの刎頸の交わりを交わした二人がおりました。
その名を張耳(ちょうじ)と陳余(ちんよ)です。
彼らは若い時にこの交わりを交わし、天下にその名を広めることになるのですが、
ある時を境に二人の絆に日々がはいってしまいます。
一体何が原因で、刎頸の交わりを交わした二人の絆に亀裂が入ってしまうことになったのでしょうか。
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刎頸の交わりを交わす
張耳は戦国四君の一人である信陵君(しんりょうくん)の食客となっていた人物です。
彼は信陵君が亡くなってしまうと魏から行方を晦まします。
その後張耳は土地の実力者の娘と結婚することがきっかけとなり、
彼の評判を聞きつけた客が彼の元に駆けつけてきます。
また彼の評判は魏王の耳にも聞こえることになり、彼を官職につけます。
陳余は張耳の評判を聞いて彼の元を訪れ、色々なことを語り合います。
その結果二人は意気投合して仲良くなり、刎頸の交わりを交わすことになります。
陳勝・呉広の反乱に参加
二人はその後も仲良く付き合っておりましたが、始皇帝によって魏は滅亡することになります。
この時二人に懸賞金がかけれられることになります。
二人は役人に追われる身となり、逃亡生活が始まります。
その後始皇帝が亡くなるまでこの逃亡生活が続くことになるのですが、始皇帝が亡くなると
陳勝と呉広が秦の過酷な政治に我慢できなくなり、反乱を起こします。
張耳と陳余は陳勝に謁見し、反乱軍に参加を認められると武臣(ぶしん)の配下として、
趙攻略に尽力します。
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趙王を立てて秦に抵抗するも…
武臣は張耳と陳余らの働きによって趙攻略に成功します。
しかし彼は秦の謀略にはまった配下の者に殺害されてしまいます。
この時張耳と陳余は首都邯鄲から逃げ出すことに成功。
そして二人は趙王の子孫である趙歇(ちょうあつ)を新しい趙王にしてから、
邯鄲より北の信都を首都に定めます。
だが秦の名将である章邯(しょうかん)率いる秦軍がやってくると張耳は趙王と共に信都を捨てて、
鉅鹿城に逃げ込みます。
陳余は張耳と別行動し、兵士を募兵した後包囲された鉅鹿城を救援しに行きます。
だが秦軍の包囲は重厚で陳余は中々攻撃に踏み切ることができませんでした。
こうして数ヵ月の月日が流れてしまいます。
陳余を疑う張耳
鉅鹿城で篭城している張耳は、
陳余が鉅鹿城近辺に来ているのになぜ秦軍に攻撃を仕掛けないのか不審に思います。
そこで彼は使者を送って秦軍へ攻撃を仕掛けるように陳余を促しますが、
陳余は「秦軍との兵力差が大きため攻撃を仕掛けることに意味がない。」と訴えます。
この言葉を聞いた張耳は激怒して「昔お前と私は刎頚の交わりを契ったのに、
なぜ攻撃を仕掛けて鉅鹿城を助けに来ないのだ。
全滅覚悟で攻撃すれば、秦軍を撃退することが可能なはずである」と再び使者を送ります。
陳余は張耳の使者を迎えると「私が攻撃を仕掛けないのは、鉅鹿城が陥落した後に
あなたの仇を討つためである。だから不要な攻撃を仕掛けないのだ。」と反論。
しかし張耳の使者は陳余に食い下がり「お願いします。
鉅鹿城はあなた様の援軍を待っています。」と再度懇願します。
陳余は使者が執拗なので、少数の兵を分け与えて帰還させます。
こうして刎頚の交わりを交わした二人に溝が出来てしまうことになってしまうのです。
春秋戦国ライター黒田レンの独り言
今回は刎頚の交わりを交わしたふたりの絆に亀裂が入った時を紹介しました。
張耳からすれば鉅鹿城救援するために兵を募ったのに、近くでグズグズしている陳余に
苛立ってしまってもしょうがないのではないのでしょうか。
また陳余としても仇討ちの為に駐屯しているのではなく、
援軍が到来してから反撃するつもりだったのかもしれません。
しかし一つ言えることは生死の危機に立たされると人は親しい者でも裏切ってしまうことがわかる
前例と言えることがこのふたりを見ているとわかると思います。
次回はこのふたりの絆が決定的に壊れてしまった時をご紹介したいと思います。
「今回の楚漢戦争時代のお話はこれでおしまいにゃ。
次回もまたはじめての三国志でお会いしましょう。」
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