数年前に日本のいくつかのテレビ局で放送され、今でもネット配信やDVD等で見ることのできる中国ドラマ「三国志 Three Kingdoms」
三国志演義のストーリーに沿いつつも、ところどころ正史寄りの穿った考察もほの見え、登場人物たちがえんえんと謀略を語るシーンが印象的な、
独特な雰囲気を持つ三国志ドラマです。
蜀の第五次北伐の場面では、諸葛亮が魏延を粛清しようとするシーンもあるのですが、そこでもこのドラマお得意の謀略描写があり、
諸葛亮がいじわるすぎるおじさんになっています!
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この記事の目次
正史三国志における魏延「謀反」のてんまつ
正史三国志を見るかぎりでは、謀略があったのかどうか分かりません。
北伐の陣中で病気が重くなった諸葛亮は、自分が死んだあとの撤退のしかたについて、楊儀、費禕、姜維に内密に指示をあたえました。
その内容は、魏延を最後尾において追撃をはばむ係になってもらい、姜維たちがその前を進むというものです。
諸葛亮は、魏延が命令に従わない場合は彼のことは放っておいてみんなで先に帰ってしまうように、とも言っていました。
さて、実際に諸葛亮が亡くなると、魏延は撤兵の指示に従わず、残って魏との戦いを継続するべきだと主張しました。
そこでみんなは魏延を放置して自分たちだけ先に帰り始めたのですが、それに気付いた魏延は怒ってみんなの先回りをし、桟道を焼いてしまい、
楊儀たちとの対立姿勢をあらわにしました。
楊儀と魏延はお互いに相手のことを謀反人だと主張し合い、蜀の領土に入ってから対陣することになりました。
最後には楊儀側の武将の馬岱が魏延を斬りました。
この記述だと、諸葛亮は魏延に対して “言うこと聞かないならどうなっても知らないからな”という程度の気持ちであって、
“あいつは絶対に謀反するからその時に必ず消してやる”とまでは思っていなかったように見えます。
三国志演義における魏延粛清計画
三国志演義では、諸葛亮は自分の死後に魏延がそむくことを確信しており、楊儀と馬岱に魏延粛清の手順を指示しています。
馬岱は魏延に同調すると見せかけて魏延に貼り付いておくようにし、楊儀は魏延との対陣の場にのぞんだら魏延と会話をして気をひいておき、
そのすきに馬岱が不意打ちで魏延を殺すというものです。
三国志演義では、諸葛亮は魏延を殺す気まんまんですね。
「三国志 Three Kingdoms」の不思議なシーン
「三国志 Three Kingdoms」には不思議なシーンがあります。
病気になった諸葛亮が、七日のあいだ灯明が消えなければ延命ができるという祈祷を行っており、そうとは知らない魏延が
諸葛亮と話そうと思ってずかずかと祈祷の場所に入ってきたところ、灯明が消えてしまいます。
これは三国志演義にもあるシーンですが、このあとに「三国志 Three Kingdoms」ではオリジナルの不思議なシーンが続きます。
「魏延よ。実は悩みがあるのだ。そなたに相談したい」
「お話し下さい」
「私はまもなくこの世を去る。私の死後、三軍をたばね北伐の重任を担うことができるのは誰であろうか」
「それは、……私の口からは申し上げられません」
「言ってくれ」
「丞相は功 天地を蓋い、乾坤を自在に操るお方。軍中に丞相に匹敵する者はおりません。
しかし……もしどうしても後のことについてお答えしなければならないのでしたら、強いて言えば蜀の出身者に兵権を与えてはなりません」
「なにゆえか」
「第一に、先帝も今上陛下も蜀の人ではなく、蜀を奪って国を建てたため、蜀の者が兵権を握れば陛下に不利になるでしょう。
第二に、蜀の者は兵権を握れば北伐をやめてしまい、蜀に安住してしまうでしょう」
「もっともだ」
魏延将軍、卓見ですね。「蜀を奪って国を建てた」なんてあけすけに言っちまってますが。
魏延は次のような言葉で話を終えます。
「軍をつかさどる将は、軍中において長年重任を担ってきた者であり、かつ忠義と武勇を兼ね備え、戦功が抜きん出ている者であるべきでしょう」
ここまではまあ普通の問答でして、あやしくなるのはこのあとです。
キミにきめた!
魏延の話が終わると、諸葛亮はおかしなことを言い始めます。
「実は誰に軍を任せるかはもう決めてあるのだ。
その人物は長年私に従い、久しく大志を抱き、兵法に通じ、戦って破れることのない者である。
そなたに問いたい。この人物は軍を託すにふさわしいと思うか」
「丞相がおっしゃっているのは誰のことですか」
「そなただ、魏延」
えぇ~……。魏延はちゃんと謙遜します。
「この魏延に何の徳があってそのような大任を担うことができましょうか」
「文長(魏延のあざな)よ、謙遜しすぎることはない。
資質といい経歴といい、軍中の諸将で誰がそなたに比肩しえようか。
戦功については言うまでもない。軍をつかさどる者はそなたをおいて他に誰がいよう。
蜀漢の重任はそなたに託す。先帝の霊にそむかぬよう励んでくれ」
「この魏延、決して先帝の霊、丞相の重任にそむきません」
「よろしい。軍営に戻るがよい。警戒を強め魏兵の来襲を防げ。一両日ののちに諸将を集め、三軍の兵符をそなたにさずけよう」
礼をして辞去しようとする魏延。歩き出してから振り返り、思い出したようにこう言います。
「丞相、お大事になさって下さい」
魏延をだまして煽ったいじわるおじさん
さて、魏延が出ていくとすぐに、どこにスタンバイしていたのか楊儀と姜維が入ってきます!
「楊儀、そなたの言う通りであった。魏延はとっくに三軍を自分のものとみなしている」
ハァ!?
「魏延をひっとらえてまいりましょう」
「魏延が掌握している五万の兵馬は我が軍の精鋭である。反乱をおこされれば大きな損害がでよう」
「何かお考えがあるのですか」
「彼が最も油断している瞬間が最も始末しやすい時だ」
「それはいつでしょうか」
「兵符を授ける時である。姜維よ、馬岱を呼んで参れ」
というわけで、結局魏延は馬岱に斬られるわけですが、撤兵を開始する前に斬られているので、内乱は未然に防がれております。
正史三国志では内乱が起こっているので、「三国志 Three Kingdoms」はオリジナル演出で諸葛亮を正史以上に聡明にしております。
聡明というか……ちょっと! 腹黒すぎますよ! 魏延は自分からは偉そうなことを言い出さなかったのに、
亮さんがキミにあとを託すって言って魏延を煽りましたよね!?
そう言われて、はあ、では頑張ります、って答えただけで、あいつには野心がある! 混乱の元! 抹殺! ってなるのは、
日本人の常識からすると理解不能じゃないですか?
人の言葉を言葉通りに受け取ってはいけないんでしょうか……オソロシヤ。
三国志ライター よかミカンの独り言
中国に「老不看三国、少不看水滸(老いて三国を看ず、少くして水滸を看ず)」という言葉があります。
次のような意味です。
年寄りは三国志を読んではならない。ますます老獪になり始末におえなくなるから。
若者は水滸伝を読んではならない。ますます血気盛んになり始末におえなくなるから。
「三国志 Three Kingdoms」をみると、老獪になりすぎるという説にとても納得します。
私が見たことのある中で一番おっかなかった三国志が「三国志 Three Kingdoms」です。
あの作品の謀略描写は圧巻です!
いい人のはずの諸葛亮があんないじわるおじさんになっているなんて……面白すぎます!
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