人間は出来れば死にたくないと願うものですから、世界中の神話には不老不死を求めて結局得られない人間の話が出てきます。そもそも人間の致死率は100%であり死なないというのは不可能、だからこそ不老不死は永遠のテーマになりました。
さて、神話の時代の日本人は死ぬ事がありませんでした。その日本人に呪いをかけて死ぬようにしたのは、なんと創造神のイザナミだったってご存知でしたか?
この記事の目次
神様なのに死んでしまうイザナミ
イザナギとイザナミは、人の姿をした男女の神であり、ことあまつがみに命じられて地上を産み出す事を命じられます。いわゆる国産みと呼ばれるものです。二人の神は、まだドロドロで姿を現していない大地に、アメノヌボコを突き立ててかき回し、矛からしたたり落ちる泥からオノコロ島を産み出しそこに降り立ちました。
イザナギは島に天御柱と八尋殿という大きな宮殿を造作するとイザナミと結婚しました。そして二神はウヒョに励み、大八島と呼ばれる日本列島を産みだし、さらに沢山の神々を産んでいきます。つまり日本列島は神話上、全てイザナミの母体から生まれたのです。
しかし、イザナミが火の神様であるヒノカグツチを産み落とした時に悲劇が起きます。ヒノカグツチが炎の神である為にイザナミは陰部を大やけどし、回復する事なく死んでしまいました。死んだイザナミの魂は黄泉の国に飛んでいき、イザナギだけが残されました。
ヒノカグツチを切り裂き黄泉に向かうイザナギ
突然の事にイザナギはブチ切れます。そして、トツカノツルギでイザナミが死ぬ原因になったヒノカグツチを切り裂きました。ヒノカグツチは死に、その死体からも無数の神々が誕生します。
しかし、ヒノカグツチを斬ったとて、亡き妻が戻ってくるわけでもありません。やる気を失くしたイザナギは八尋殿に引き籠って泣いていましたが、いよいよ寂しさが募り、とうとう黄泉に行ったイザナミを連れ帰る事を決意します。色々問題行動が多いイザナギですが、日本神話の神は神だからとて高潔な人格を持っているわけではなく、とても人間くさいのです。
地上に帰りたくないイザナミ
その頃、黄泉と地上は完全にふさがれてはいませんでした。イザナギは、なんとか黄泉の入り口に辿り着くと暗い洞窟の中に入り、愛しい妻の名を呼びながら進みます。ひたすら洞窟の中を進むと「あらあなた!何しに来たの?」と懐かしい声がします。
それは死んでしまったイザナミでした。やっとイザナミに再会できて有頂天のイザナギは、イザナミにどうか帰ってきてくれと哀願しますが、イザナミは乗り気ではありません。
黄泉では炊事、洗濯、育児の仕事もなく、ワガママなイザナギの世話を焼かずに済み、話し相手もヨモツシコメという黄泉のドブス軍団がいて、毎日ガールズトークが出来、真っ暗な事を除けば天国だったからです。
「やっぱり、黄泉と現世では住む世界が違い過ぎると思うの、、あなたは、地上であなたの幸せを見つけてちょうだいな」
冷たく突き放すイザナミに、イザナギは泣きの一手です。
「俺はお前なしでは生きられない、残された子供達も母さんを恋しがって泣いてるぞ。だからお願いだから戻ってくれ・・」
最初は冷ややかに聞き流していたイザナミですが、惨めに泣き叫ぶイザナギに段々と可哀想になってしまいました。分ったわ、でも、黄泉の国からは私の一存では出られないのよ。ちょっと上司に相談するから、その間、絶対に私の姿を見ないでね。
変わり果てたイザナミに驚き逃げだすイザナギ
大喜びしたイザナミは、暗闇の中でイザナミの返事が来るのを待ち続けます。しかし、待てども待てども、イザナミはうんともすんとも言いません。真っ暗闇では、他にヒマの潰しようもなく我慢できなくなったイザナギは、松明に火をつけてイザナミの姿を見てしまうのです。
それは美しかったイザナミとは似ても似つかない。腐りはてた肉体にウジが湧き、悪霊が体のあちこちでとぐろを巻いているという世にも怖ろしい怪物でした。
「ぎゃあああああ!!お、おばけーーーー!」
恐ろしさに思わず叫んだ事で、イザナミはイザナギに気づいてしまいます。
「おのれ、イザナギ、、あれほど私の姿を見るなと言うたに、、許せぬ殺してくれる」
イザナギは、一目散に逃げだします。もう頭の中は後悔で一杯でした、未熟な自分が愚かにも災いを呼び寄せたのです。しかし、捕まれば自分も黄泉の住人に落ちてしまいますから、イザナギは追いかけてくるヨモツシコメに所持品をぶつけながら、必死に逃げます。
そして洞窟を抜け出すと、近くに生えていた桃の実を手に取り洞窟の入り口に投げつけると、それは大きな岩になり黄泉と地上を完全に塞いだのです。
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