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産業革命の深い影
産業革命により、逸早く近代化を成し遂げたイギリスですが、栄光の反面には強烈な影が存在します。人口集中により水は汚れ、大気は石炭や有害物質が大量に含まれた工場の煙に汚染され生活環境が極度に悪化したのです。
また、急激に増大した労働人口に対し、住宅の建設が間に合わずスラム街が立ち並び、上下水道も整備されなかったので、赤痢やコレラのような感染症が定期的に蔓延し、当時の工場労働者の平均寿命は20歳前後でしかありませんでした。
そして、機械の導入により熟練した職人が不要になると資本家は低賃金で雇える女性や子供を雇用して長時間労働に従事させます。街には失業者があふれ、資本家はいつでも反抗的な労働者の首を切り、新しい労働者を雇う事が可能でした。
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社会主義の誕生
資本家の中にも、過酷な環境に置かれた労働者、特に子供たちの重労働に対して疑問を持ち、労働者の権利を守ろうと運動を興す人々が現れます。
代表的人物がロバート・オーエンで、彼は児童労働の廃止や長時間労働の短縮を唱え、労働者に人間らしい暮らしをさせる為に、スコットランドのニューラナークに紡績工場を建設し、10時間労働を実践。労働者のための清潔な住宅を建て子供たちに教育を施す為に幼稚園と小学校を併設しました。
オーエンは労働者が団結する事で資本家に対峙できると考え、労働組合の設立にも熱心であり、やがてオーエンの影響を受けた人々の中から労働者と資本家を対立した関係と考える社会主義や共産主義の考え方が進展していく事になります。
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世界史ライターkawausoの独り言
産業革命はインドから輸入された綿織物がイギリスで大ヒットした事を契機に起こります。しかし、それ以前からイギリスでは資本家が大西洋三角貿易で資本を蓄積し、豊富にあった石炭をエネルギーとする為に、地下水の排出が蒸気機関の力を借りて行われていました。
やがて、ワットが蒸気機関の上下運動を円運動に転換すると蒸気を動力とする紡績機や力織機が誕生し、同じく円運動を車輪に伝えた蒸気機関車が膨大な労働人口を都市に運び込み、大量生産・大量消費の現代に繋がる消費世界がイギリスで誕生したのです。
しかし、コストを極限まで下げる合理化は安い人件費で雇用できる女性や子供の長時間労働や劣悪な生活環境を放置する事になり、それは労働者の権利を守ろうとする社会主義運動へと発展していきました。
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