週刊ヤングジャンプに長期連載中で、二度も映画化された大人気春秋戦国時代漫画「キングダム」。その登場人物の中でも特に人気があるのが王翦です。
漫画の中では自らが王になろうとしている怪しく不気味な人物とされている王翦ですが史実では正反対、始皇帝に物欲丸出しな要求を出して媚びへつらう人物でした。
秦滅亡の大ピンチに豪華な屋敷と土地をおねだり
王翦の物欲大魔王ぶりを解説しましょう。紀元前225年、南の大国楚の将軍項燕は、侵略してきた秦の李信と蒙恬の率いる20万の大軍を潰滅させ、勢いを得て、そのまま秦の玄関である函谷関まで攻めてきました。
ここが落ちれば秦の都咸陽は目と鼻の先、恐れた秦王政(始皇帝)は隠居していた王翦の自宅をわざわざ尋ねて、秦の危機を救ってくれと頭を下げます。王翦は項燕撃退のために秦のほぼ全兵力である60万を要求し、政は要求を飲みました。
しかし、ここから王翦の物欲が爆発します。函谷関につく前から広大な土地が欲しいとか豪華な邸宅が欲しいとか、家族にも手厚い恩賞をよろしくと秦王政に幾つもおねだりの手紙を出したのです。政は呆れて大笑いし「なんでも将軍の望むモノを与えるから任せておけ」と返答しました。
王翦の物欲は演技だった
この時、王翦を尊敬していた副官が呆れて意見します。「あなたはもう少し欲がない人だと思っていたのに見損ないました」すると王翦は真顔になって答えました。「君は秦王の性格を知らないからそんな事が言えるのだ。秦王は疑り深く権力を持つ人間に常に猜疑心を向け、僅かでも怪しいと思えば必ず口実を見つけて滅ぼす。
考えてもみたまえ、私は今、秦のほぼ全ての兵力である60万人を手中にしている。秦王は私を信じていると口では言うが、その百倍、私が裏切らないか恐れている。だからこそ私は、常に屋敷や土地をおねだりして、物欲しか頭にないつまらない人間だとアピールしているのだ。
始皇帝を信じなかった王翦は天寿を全う
史実の王翦は始皇帝を一切信用せず、自分を物欲しか頭にない小物だと印象付ける事で、始皇帝の猜疑心を回避、戦国七雄の中の趙、燕、楚を滅ぼす功績を立てながら誅殺される事無く天寿を全うしました。王翦といえば神算鬼謀を連想しますが、人の心を徹底的に読む洞察力があったからこそ、それが可能だったのでしょう。
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