関羽が青龍偃月刀(冷豔鋸)、張飛が蛇矛(丈八点鋼矛)を愛用するのに対し、その義兄である劉備は双股剣(雌雄一対の剣)を所持していたと三国志演義には記されています。果たして劉備は双剣の使い手だったのでしょうか?二刀流は劉備が編み出した武術だったのでしょうか?今回は劉備の双剣の謎に迫ります。
二刀流といえば宮本武蔵
日本でも二刀流で無敵の強さを誇った英雄がいます。宮本武蔵です。二刀流のメリットは、受けと同時に攻撃が可能な点でしょう。ただし、相手が両手で握って振ってくる剣を片手で受け止めるだけのパワーが必要になります。そもそも力がなければ、片手で振った剣で甲冑に身を固めた敵を倒すことなどできません。馬上で二刀流を使いこなすなど宮本武蔵でも不可能だったでしょうから、それができるとなると完全にファンタジーの世界です。
双剣は女性の武器
しかし中国では、双剣を使いこなすのは女性と相場が決まっています。この場合、双剣は女性が片手で扱えるほど軽量です。一本の剣を二つに分けたものです。宮本武蔵のように二本の剣を振るったわけではありません。
アクション映画を観る限りでは、相手の攻撃を受けずに回避し、双剣でダブルアタックしています。この細身の刀身では、相手の攻撃をまともに受けると折れてしまう危険性があるからでしょう。スピード感重視で、片手の攻撃でも効果的なダメージを与えられるよう、甲冑で守られていない箇所や急所を狙っています。あくまでも映画の演出の話ですが……。
劉備がなぜ双剣なのか
女性が使用するような武器をなぜ劉備が愛用しているのでしょうか。これは劉備が双剣の使い手だったということではなく、劉備の「女性性」を象徴していると考えられています。そもそも三国志に代表される「白話小説」では、主役はカリスマ性に富んでいますが、強くないというのが典型です。
西遊記の三蔵法師、水滸伝の宋江と、周囲に圧倒的な豪傑がおり、主役に武力は求められていません。強さ以上に求められているものがあるからです。もちろん志は高く、意思も人一倍強いのですが、戦場ではややひ弱な感じがあるのが特徴です。これは白話小説が成立した明の時代の価値観を反映しています。
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三国志正史の劉備の人物像
三国志正史でもカリスマ性を発揮している劉備ですが、こちらはかなりアウトローです。近隣のならず者たちと交流し、親分肌で慕われています。勉強することよりもファッションや音楽に興味があったようです。イケイケの若者たちと共感しあえるような存在でした。
これに対して三国志演義の劉備はまっすぐに志を説き、義を尊び、関羽や張飛を包み込むような存在として描かれています。これが明代の理想のリーダー像なのです。リーダーに求められている資質は、力が強く才能に満ち溢れていること以上に、弱くても人の心を動かすことのできる仁徳だからです。
主役の女性性を際立たせることで、何がリーダーに必要なのかをわかりやすく示しているといえます。曹操がやや否定的に描かれているのは、そんな理想のリーダー像に適していないからということもあるのでしょう。
三国志ライターろひもとの独り言
ずいぶんと昔の話にはなりますが、ドラマ「西遊記」の三蔵法師役を故・夏目雅子さんが演じていたのが印象的です。素晴らしく魅力的な作品なのですが、なぜ男性の三蔵法師を女性が演じるのか不思議に思った記憶があります。
おそらく三蔵法師を夏目雅子さんが演じたことと、三国志演義で劉備が双剣を帯びていたことには共通するものがあるのでしょう。劉備だけは女性が演じているような三国志のドラマや映画もぜひ観てみたいですね。他の三国志の作品以上に伝わってくる何かがあるかもしれません。
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